{{category クトゥルフの呼び声}} クトゥルフ神話TRPG 2010シナリオ 扉の向こう側 ※PDF版はダウンロードコーナーにあります。 ―――愛(うつく)しき我(あ)が汝兄(なせ)の命、かくしたまはば、汝(いまし)の國の人草、一日(ひとひ)に千頭(ちかしら)絞(くび)り殺さむ―――(古事記 稗田阿礼・太安万侶 校注 武田祐吉 角川書店 1956) !!!プロローグ  ピンポーン  チャイムを鳴らすと、程なくして美由紀がドアを開けた。 「いらっしゃい。わざわざ遠いところをお越し頂いて」  はじけるような笑顔の美由紀はそう言いながら君たちを奥のリビングへと案内する。リビングは品のいいクリーム色の壁紙で、明るめのウットブラウンでまとめられたテーブルセットには、おそらく美由紀が腕を振るったのだろう、サンドイッチなどの軽食が綺麗に並べられている。  リビングの掃き出し窓からは緑の中にぽっかり浮かんだ島のような八王子市の町並みが一望でき、遠くに見える山並みの向こうには遙か遠く富士山が顔を出していた。 「眺めのいいのだけが自慢なの。これだけは田舎の特権ね」  君たちが窓の外の眺望に見とれていると、美由紀が悪戯っぽく微笑んで言い、続ける。 「どうぞ適当に座ってね。今、お茶を入れるわ。主人は今買い出しに行っているけど、もうすぐ帰ってくると思うから。お酒は、大丈夫よね?」 「主人」という時の美由紀の表情に、はにかみと、同時に隠しきれないうれしさのようなものを感じた君達は、心の中でそっと微笑み、頷く。美由紀は結婚式の時と変わらず、幸せに満ちあふれたような、明るい笑顔をしていた。友人夫婦が円満だと、こちらも気分がいいものだ。特に、夫婦どちらについても良く知っている場合には。  ここは、八王子市郊外の大型新築マンション、「ロイヤルヒルズ緑が丘」。このロイヤルヒルズ緑が丘は最近の流行にのって八王子市郊外に建てられた高層マンションで、聞いた話だとそのリーズナブルな価格帯と、緑の多い周辺環境とで十倍を越す大人気だったらしい。  今日、君たちはそのロイヤルヒルズ緑が丘の802号室に入居した友人夫婦、中西成二と美由紀に招かれ、引越祝いのパーティに招待されていた。中西夫妻は学生時代、君たちと同じサークルに所属していて、卒業後数年を経て結婚し、そしてつい先月、完成したばかりのこのマンションを購入して引っ越したのだ。  二人は学生時代から付き合っていたため、結婚式の招待状をもらった時も別段驚きはしなかったが、その付き合いの長さ故に続くのかどうか少々心配でもあった。しかし、結婚後三年と少し経ってもこの様子ならその心配も杞憂だったようだ…。  ピンポーン  君がそんな物思いに耽っていると、不意にチャイムが鳴った。 「あら、成二さんだわ」  かわいらしい真っ白なティーポットで紅茶を入れようとしていた美由紀がはじかれたように席を立ち、インターホンを取る。君は慌ててお茶を入れる作業を引き継いだ。  まったく、学生時代の方がまだ遠慮があったんじゃないのか?  君はほほえましい気分で美由紀の背中に視線をやる。美由紀は 「もしもし? あら? もしもし?」  と言いながら首を傾げ、それからカチャリとインターホンの受話器を戻した。 「どうしたの?」  君が尋ねると、美由紀は首を傾げながら 「うん、誤動作だったみたい。引っ越してからまだ半月位なんだけど、インターホンが誤動作したり、電話が急に繋がらなくなったりする事が時々あるのよ。成二さんから業者に言ってもらわなくちゃ」  そうこうしている内に、ドアが開いて噂の成二が帰ってきた。 「ただいま」 「あら成二さん。じゃ、今のやっぱり成二さん?」 「何が?」 「今、チャイム鳴らした?」 「いや」 「ほんとに?」  頬をぷくっと膨らませ、美由紀が尋ねる。成二が悪戯をしたと思っているのかもしれない。 「ほんとさ。美由紀に嘘なんかつくはずないじゃないか」  成二も悪戯っぽく微笑んで答える。 「もう、調子いいんだから」  頬を膨らませたままの美由紀が成二の頬をつんとつつき、それから呆れたような君たちの視線に気づいて頬を赤く染めて気まずそうに俯いた。  やれやれ、これはごちそう以上に色々なモノを食べさせられそうだ。  君たちは、半ば呆れてそう思っていた。 !!!はじめに  このシナリオは「クトゥルフの呼び声 2010」に対応したものです。  シナリオは東京郊外の街、八王子市が舞台です。八王子市は古くから絹織物の街として栄えていて、現在では都心まで電車で1時間弱と交通の便が良く、また広大な市域にはまだまだ多くの緑が残されているためベットタウンとして宅地の整備が進んでおり、さらに数多くの大学のキャンパスがあることでも知られています。  時代設定は現代の4月はじめ頃を想定していますが、特に季節感が重要な部分はありませんのでキーパーの都合などで変更しても構わないでしょう。ただ、プロローグなどの小説風の部分は必要に応じて修正する必要があるかも知れません。また、途中で月齢が重要となる場合があります(その設定を使わない場合はその限りではありません。詳しくは『事件の真相』参照)。あらかじめ『成二からの電話』あたりからの月齢を設定しておくほうが良いでしょう。なお、満月から新月までは15日、新月から次の満月までも15日です。  また、探索者達は登場するNPCである中西夫妻と大学時代同じサークルに所属していたという設定によってこのシナリオは構成されているため、別設定を持つ探索者がシナリオに登場する場合、シナリオに修正が必要となります。  探索者の人数は3〜5人程度を想定しています。また、プレイ時間は(キャラメイク時間を含まずに)5時間程度を想定しています。ストーリーの流れが単純で登場するNPCの数も少ないため、プレイヤーによってはそれ以上に早く終わるかも知れません。特に、プレイヤーに古事記などについて知識があるとそうなりやすいでしょう。逆に、プレイヤーにそういった日本神話に対する知識が全くない場合、キーパーはシナリオに書いてある以上の情報を与え、誘導する必要があるかも知れません。 !!!あらすじ  探索者達の学生時代の友人である中西夫妻は最近郊外にマンションを買い、引っ越しました。しかし、そのマンションの近くには廃病院があり、その病院はかつて神社のあった跡地に建てられていて、なお悪いことにその土地には「黄泉の国」との接点―ヨモツヒラサカ―があり、その神社はそのヨモツヒラサカを塞いでいたものだったのです。※ヨモツヒラサカは特定の場所ではなく、こういった黄泉の国との接点を指すものとしています。  神社のご神体である封じの石がどかされてしまったために再び開いたヨモツヒラサカから、黄泉津醜女があらわれ、病院の入院患者や医師などを次々とその手に掛けていきます。そして度重なる事件についに病院は廃棄され、廃墟となりはてました。こうして、近づく人間が居なくなると黄泉津醜女は暫くなりを潜めていたのですが、近くにマンションが建つと再び活発に活動を始め、マンションの住人を次々とその手にかけていきます。探索者達の友人である中西夫妻もその犠牲者の一人で、夫、成二は殺され、妻美由紀は身体を乗っ取られ、行方不明となってしまいます。  美由紀の行方を捜す探索者達はやがて病院の廃墟へとたどり着き、そこの幻の地下二階に開いた黄泉の国への「扉」を発見することになるでしょう。果たして、探索者達はその「扉」を無事に閉じ、黄泉津醜女を追い返すことが出来るでしょうか。 !!!NPC紹介 !!中西美由紀 28歳 女性 主婦  小柄なセミロングの髪の家庭的な雰囲気の女性です。探索者達とは学生時代、同じサークルの友人同士でした。経済学部を卒業後、商社にOLとして勤務していましたが、3年前、同じサークルの先輩である中西成二(つまり、探索者達にとっても知り合いです)と結婚、退社して現在では専業主婦をしています。 !!中西成二 31歳 男性 システムエンジニア  大学の理工学部を卒業後、中堅のIT関連の会社に勤めるごく普通のサラリーマンです。美由紀と同じく探索者達とは学生時代、同じサークルでした。多少太り気味ではありますが、明るい、おおらかな性格で、なかなか茶目っ気のある人物です。3年前、学生時代から交際していた美由紀と結婚、先月、10倍の倍率の抽選を乗り越え、このロイヤルヒルズ緑が丘に引っ越して来ました。 !!!シナリオの導入  2013年4月のある日、探索者達は学生時代の友人、中西成二(31)、美由紀(28)夫妻から引越祝いのパーティに招待されます。場所は、八王子市緑が丘のロイヤルヒルズ緑が丘802号室。全戸数200戸を超える大型マンションの一室です。  中西夫妻は三年程前に学生時代のサークルの友人同士で結婚し、先月末、このマンションに引っ越したばかりです。  パーティに招待された探索者達は終始二人の甘〜い様子を見せつけられ、少々食傷気味になって、マンションを後にします(プロローグの部分を読み上げるなり、各自に読んでもらうなどして下さい)。  ゲームはそれから約一ヶ月ほど経ったある日の22時過ぎ、探索者達の一人(女性探索者がいれば女性、それ以外ならランダムで。ただし、セラピストなどの職業の探索者がいる場合は性別よりそちらを優先)に美由紀から電話がかかって来るところから始まります。美由紀は「ごめんなさい、急に電話して」と言い、しばらくためらった後、意を決したように「実はここのところずっと眠れなくて…眠ると変な夢も見るし…何だかずっと体調も良くないの。酷く頭痛がしたり、めまいがしたり…」  と話し始めます。探索者が<心理学>のロールに成功すれば美由紀は何かにおびえていて、さらに精神的にかなり参っている事が分かります。  探索者が美由紀に「医者に行ったのか」等と尋ねれば、美由紀は 「成二さんに言われて大きな総合病院に行ってみたわ。精密検査までしたけど、『特に異常なし』ですって」  と、少しヒステリックになりながら答えます。  もし、探索者達が変な夢について尋ねると、美由紀は最初は「…ええ…」などと、話すべきかどうすべきか迷っているような様子で口ごもりますが、やがて以下のように話します。 「その夢は、いつも決まって同じなの。…真っ暗な中、どこか遠くで扉の開くような…それも、錆び付いた鉄の扉みたいなのが開く時みたいな軋んだ音が響いて…それから、髪の長い女性がマンションの前の道を下ってくるの。…私、怖いのよ…何だか成二さんの様子も変だし…気味が悪いの。私…私、どうなっちゃうのかしら…」  だんだん感情の高まりを押さえきれなくなったのか、最後の方はヒステリックな金切り声に近くなっていて、さらには泣き出してしまいます。しかし、泣いたことで少しすっきりとしたのか、暫く後には以前より落ち着いた様子で 「ごめんなさい、取り乱してしまって。話したら何だか気持ちが軽くなったわ」 と言い、礼を言って電話を切ります。  もしこの段階で電話を受けた探索者が美由紀の部屋に行くのなら、チャイムを押しても返事がありません。また、美由紀の携帯もつながらなくなっています。もしどうにかして部屋に入るのなら、そこに美由紀の姿は無く、成二の死体を発見することになります(事件発生を参照。その場合は死亡直後の遺体を発見することになります)。  もしも探索者が電話を切らずにすぐに会いに行こうとするのなら、途中でトイレなどの用事かチャイムが鳴るなどして電話を一端切るように仕向けて下さい。どうしても切らないのなら、何かの用事で電話から離れ、しばらくすると勝手に電話が切れてしまい、以降、繋がらなくなります。  また、翌日に会おう、等と美由紀と約束をした場合、美由紀は約束の場所には現れません。もし美由紀の部屋で会うことにしていたのなら、チャイムを押しても返事がありません。また、美由紀の携帯もつながらなくなっています。もしどうにかして部屋に入るのなら、そこに美由紀の姿は無く、成二の死体を発見することになります(「事件発生(死体発見編)」を参照。その場合は死後半日ほど経った死体を発見することになります)。  もし探索者がすぐに行動せず、成二の死体を発見せずに翌日の夜まで時間が進むのでしたら、23時過ぎ、探索者達の一人(女性探索者がいれば女性、それ以外ならランダムで)に成二から電話がかかって来ます。 成二は酔っぱらっているのか、多少ろれつの回らない様子で 「美由紀を出してくれ」  と言います。電話を受けた探索者が「来ていない」と答えると、「そうか」と言い、すぐに電話を切ります。そしてすぐに別の探索者に同じように電話をかけ、同じ事を尋ねます。もし探索者達が事情を尋ねても、「いや、何でもない」と言い、すぐ電話を切ってしまいます。  なお、電話は成二の携帯電話です。  もし探索者がその後成二の携帯に電話をしてみても、呼び出し音が鳴るだけで誰も電話には出ません。もし探索者がマンションに行き、部屋に入るのなら、成二の死体を発見することになります。次の「事件発生」を参考にして下さい。なお、その場合は死亡直後ぐらいの成二の死体を発見することになります。  ※つまり、成二の死体発見イベントは探索者の行動によって日にちが変わるイベントです。 !!!事件発生(死体発見編)  翌日、成二に連絡を取ろうとしても、自宅も携帯も呼び出し音は鳴るのですが電話には出ません。会社に連絡した場合、「中西は本日欠勤しています」と言われます。もし探索者達が事情を話し、友人であることを説得できれば<言いくるめ>成二が今日は無断欠勤していることが分かります。  ここで探索者達はマンションに行ってみるか、そのまま放置しておくか選択することになるでしょう。もし探索者達が「そのまま放置しておく」事にした場合は次の「事件発生(事情聴取編)」に飛んで下さい。  気になった探索者達がマンションを訪れ、マンションの入り口のインターホン(ロイヤルヒルズはセキュリティのため、マンションの入り口には自動ドアがあり、入り口にあるインターホンを鳴らして訪問先の部屋についているスイッチでドアを開けてもらうか、もしくは持っている鍵を使ってドアを開けないと中に入れない構造になっています)を鳴らしてみても返事はありません。昼間(9時〜17時)なら管理人がいますので事情を話して開けてもらうか、他の住人、もしくは訪問者が入るのに合わせて侵入するか(警備会社に通報されます)、片っ端からインターホンを鳴らして誰かが何も聞かずに開けるのを待つか<幸運>、宅配便などと嘘をついて侵入する必要があります。  首尾良くドアをくぐれば後は自由に行動できます。  部屋の玄関にあるインターホンを鳴らしても当然誰も出ません。もし念のため、探索者がドアノブに手をかけて回せば、鍵が開いていて部屋の中に入ることが出来ます。  気になった探索者達が部屋の中に入ってみると、玄関には成二の物らしい黒い革靴が乱暴に脱ぎ散らかされています。また、玄関の靴箱の上に置かれていた鏡が三和土(たたき)に叩きつけられていて、粉々に割れています。探索者が鏡と靴等を調べるなら<目星>、鏡は、三和土に叩きつけられ、さらに念のいった事に大きな破片を全て何かで叩きつぶしたらしいことが分かります。  さらに、<アイディア>のロールに成功した探索者は、靴の下に鏡のかけらが大量に散らばっていること、靴の中には鏡のかけらが入っていないことから、鏡は成二が帰ってくる前に割られたらしいことが分かります。 なお、玄関、廊下、リビングの電気がついています。  探索者達がさらに部屋に入れば、部屋の中は前回の小綺麗さが嘘のように荒れています。キッチンには洗い物が水に浸かったまま放置されていて、リビングにはビールの空き缶がいくつも転がっています。また、リビングのテーブルには成二のスマートフォンがあります。さらに、ソファーには成二の物らしい、男物の黒っぽいスーツの上着とズボン、それにネクタイが乱暴に脱ぎ散らかされ、ソファーのすぐ側の床には黒い男物の靴下が脱ぎ散らかされています。  また、<目星>をするかソファーの下を調べれば、美由紀の物らしい蓋が開いたままのコンパクトを見つけることが出来ます。このコンパクトの鏡は無傷です(部屋中の鏡を割った美由紀でしたが、唯一このコンパクトの鏡を割ることを忘れていたのです。そして、たまたま化粧をしようとコンパクトを開けた際にヨモツシコメの餌食となったのです)。  以下、各部屋の状況です。 !和室  洗ったままの洗濯物がアイロン台の側に放置されています。また、ビールの缶が詰まった半透明のゴミ袋が3袋、生ゴミの入ったゴミ袋が2袋、口を縛った状態で置かれています。もし、探索者がゴミ袋をあさるなら<目星>のロールに成功すれば、ここに置かれているゴミ袋の中身はほぼ半月程前からの物で、生ゴミの方にはコンビニ弁当の空き容器等が大量に混じっているのが分かります。  窓についている障子の桟には埃がうっすらとたまっています。 !寝室  大きなダブルベッドが部屋の大半を占める夫婦の寝室です。他には化粧台と、洋服ダンスがあります。  化粧台についている鏡は粉々に叩き割られています。また、<目星>に成功すれば鏡の破片が玄関と同じように念入りに叩きつぶされているのが分かります。  ベッドを調べて<目星>に成功すると、成二の物らしい薄緑色の枕のおいてある側にはここ最近、眠ったような形跡がありません。  洋服ダンスの扉には服が挟まっていて、少し空いています。開けると中は服がぐちゃぐちゃに散らかっていて、さらに扉の裏側についていた鏡も粉々に叩き割られています。 !書斎  将来は子供部屋になるのかもしれませんが、現在は成二の書斎として使われている部屋です。窓際に置かれたスチール製の小洒落た机の上にはA4サイズのノートパソコンが置かれていますが、うっすらと埃がたまっていて最近使われた形跡はありません(<目星>)。また、パソコンの側には幸せそうに微笑む二人の写った写真の入った写真立てがありますが、これも埃がうっすらと積もっています。  壁際に置かれた机と同じ様なデザインの本棚にはコンピューター関係の書籍が置かれている他に、これと言ったものはありません。 !トイレ  普通の洋式、水洗のトイレです。便座の上の辺りに、小さめの戸棚が作りつけられています。便座にはウォシュレットが付いていて、グリーンのカバーが付けられていますが、カバーは暫く取り替えられていないのか薄汚れています。また、便器自体も薄汚れ、手洗い器に置かれたブルーレットは中身がなくなってしまっていて、さらに、便座の上の小さな棚を調べれば、トイレットペーパーの買い置きも底をつきかけてるのが分かります。  また、もし隅のゴミ箱を調べるなら、中身は空です。 !洗面所  まず目に付くのは滅茶苦茶に割られた洗面台の鏡です。他には全自動の洗濯機と、その上に乾燥機があります。また、床に乱暴に置かれた洗濯籠にはよれよれのワイシャツと、トランクスが脱ぎ散らかされています。洗面台は水垢が付き始めていて、暫くの間掃除をしていないらしいことが分かります<目星>。  洗濯機の蓋の上にはバスタオルが置かれています。また、洗濯機の中には男性物の下着や女性物の下着、ワイシャツなどが無造作に放り込まれています。乾燥機の中は空です。 !風呂場  風呂場は電気がついています。扉を開けた探索者は浴槽にうつぶせで半ば沈んでいる白い肉の塊―成二の死体―を見つけることになります。  ここでキーパーは発見した探索者に正気度判定をさせて下さい(1/1D4)。  成二の死体は浴槽に張られた水にうつぶせの状態で全裸で浮かんでいました。また、浴室内の鏡はやはり粉々に割られていて、割れた破片は一応排水溝の辺りにまとめられています。また、浴槽の側の床には金槌が落ちています。  この状態に気づいた探索者達は普通、警察に連絡するでしょう。  また、マンションに侵入する際に他の住人の後について入った場合にはこのタイミングでチャイムが鳴り、警備会社の警備員が二人、玄関の外にいます。探索者達が応答しないなら、警備員達はドアを開けて(鍵がかかっていないので)入ってきます。もし部屋に入った際に探索者たちが鍵をかけていた場合、チャイムを何度か鳴らした後、応答が無ければ合い鍵を使って入ってきます(さらに部屋に入るタイミングで警察に通報されます)。探索者達から死体の話を聞けば彼らは取りあえず警察に通報します。また、探索者達に事情を尋ねますが、普通に事情を話せば納得します。もし事情をきちんと話さないのなら当然彼らの目からは容疑者としてみられ、それなりの対応(警察が来るまで監視されたり、警察に事情聴取された際に探索者達について悪く言ったり)をされるでしょう。  また、もし部屋から出ていこうとした場合や、あちこち調べようとした場合には彼らに止められます。  管理人を説得して入った場合には探索者達が通報しないなら、管理人が警察に通報します。管理人は死体を発見した後は玄関の外に出てしまうので、探索者達の行動にとやかく言うようなことはありません。  もし探索者達の中に医者がいて、成二の死体を調べた場合<医学>、成二の死因は溺死で死後半日ぐらい(電話のすぐ後に行動したのなら死後1時間以内など、発見時の状況で少し変わります。また、水に浸かっているのでかなりのずれが出ますが)経っていそうだという事が分かります。もっとも、それを警察に言ったとしても現場をさわったとしてあまり歓迎されないでしょう。  また、医者でなくとも成二の死体を調べれば<目星>、成二の右手に数本の長い(160センチ以上あります)髪の毛が握られていることに気づきます。さらにこの髪の毛を<医学>もしくは<目星>で調べれば、この髪の毛には毛根がついている事が分かります。この事から導き出せるのは、この髪の毛が自然に抜けた物ではなく、引き抜かれた物であるということです。  さらに、成二の両手の爪には皮膚片と思われる物が微量ですが付着しています。  警備員がいなかった場合には、警察が到着するまでに探索者一人に付き二箇所を調べることが出来ます。 ※成二からの電話の直後辺りにマンションに向かった場合  マンションの入り口から電話しても、チャイムを鳴らしても部屋からの応答はありません。夜中ですので管理人はいませんので、どうにかして入り込むか、管理会社か警備会社に電話して開けてもらうかになります。それ以外の状況はほぼ同じですが、遺体は死後1時間程度になります。 !!!事件発生(事情聴取編)   この章は探索者達がマンションに行かず、死体を発見しなかった場合のみ必要になります。それ以外の場合は次章、「第二の事件」に飛んで下さい。  探索者達が成二のマンションを尋ねなかった場合、無断欠勤を続け、連絡も付かない成二を心配した会社の上司がマンションを尋ね、そこで成二の溺死体を発見します。  成二の溺死体の発見、そして妻美由紀の失踪は当然ながらテレビのニュースになります。そして、成二達と親しく、また事件の直前に電話を受けている探索者達の許にも当然警察がやってきます。  キーパーは任意の探索者を選んで以下の状況を読み上げて下さい。 ---------------------------------------------------------  夜。  帰宅した君はテレビの電源を入れ、ニュース番組をぼんやりと見ながら食事していた。相変わらず多いオレオレ詐欺、中高生の暴力事件、事故自殺…。最早日常の風景にすらなってしまった出来事を、ニュースキャスターが無感動に読み上げていく。君は着ていたスーツを脱ぎ、部屋着に着替え、遅い夕食の支度を手早く済ませていく。 「今日午後、東京八王子市にあるマンションの一室で、この部屋に住む男性会社員が死亡しているのが、この部屋を尋ねてきた男性会社員の同僚によって発見されました」  キッチンに立っている君の耳に、不意に馴染みのある言葉が飛び込んでくる。思わず手を止めてテレビの方を見た君の目に、見覚えのある建物が映った。  間違いない。中西夫妻の住んでいるマンションだ。 「死亡していたのはこの部屋に住む会社員の中西成二さん三十一歳…」  テレビ画面に映るマンションを凝視していた君の耳に、さらに信じられない言葉が飛び込んできた。  驚きのあまり心臓が鼓動を一回飛ばしてしまう。だが、驚きはそれで終わりではなかった。 「警察では、現在行方が分からなくなっている妻の美由紀さんが、何らかの事情を知っているものとして、その行方を探しています」  これは、暗に美由紀が第一容疑者だ、という時の言い回しだ。 (あの二人が? そんなバカな…)  結婚式での幸せそうな二人の笑顔が浮かび、否定しかけるが、すぐに別の情景が頭に浮かぶ。  十日前に会った際の美由紀のやつれた様子と、荒れた部屋。  もしや…。 (いや、よそう。友人の事をそんな風に思うのは)  そう決意した君がもっと情報はないのかと別のチャンネルに切り替えようとしていた時だった。  ピンポーン  チャイムが鳴った。 (美由紀…?)  不意に、そんな考えが頭をよぎり、反射的にテレビを消した君が覗き窓から外を覗くと、そこにはさえないグレーのスーツ姿の中年の男が二人、立っていた。  一人はメタルフレームの眼鏡をかけた、恰幅の良い男。もう一人は逆に痩せた小男だ。 (こんな時間に一体…)  少しホッとしつつドアを開けた君に、恰幅の良い、メタルフレームの眼鏡をかけた方の男が言った。 「夜分遅く申し訳ありません、私警視庁高尾警察署の大塚と申しますが…」  男はそう言いながら手帳を取り出し、身分証を見せる。 「はあ」  我ながら間抜けな返事だとは思ったが、突然のことで何も言葉が浮かばなかったのだ。 「実はご友人の中西さんの件で少々お伺いしたいことがございまして…」  大塚と名乗った男がそう切り出す。 「はぁ」  君はもう一度、間抜けな声を出していた。 ---------------------------------------------------------  一応全ての探索者がこのように刑事の訪問を受けて事情を聞かれますが、警察から接触があったのはその時くらいで、後は特に何もありません。結局の所、警察は失踪している美由紀の発見に全力を尽くす方向で捜査を進めているようですが、捜査は進展しません。 !!!事情聴取 (このシーンはプレイ時間などの都合によっては省いても構わないシーンです。その場合は次の「調査」に飛んで下さい。  警察は、探索者達に以下のような点について事情聴取をしてきます。 ・アリバイ(成二の死亡推定時刻は、5月17日午後11時〜午前3時までの間です) ・中西成二からの最後の電話の内容について。 ・美由紀の立ち回り先の心当たりについて。 ・最近の美由紀と成二の様子について。(不審な点はなかったか) ・探索者と中西夫妻の関係について。  この警察からの事情聴取に探索者達がどのように答えるのかは自由ですが、嘘を付いたり、誤魔化すなどあまりに不審な対応をすれば、この後、警察から疑惑の目を向けられることになるでしょう。 !!!調査  事件発生から数日が経ちますが、成二の溺死についても、美由紀の行方不明についても警察の捜査は全く進みません。また、警察からの接触もありません。  探索者達が事件に興味を持ち、調べようとしても、美由紀の行方は全く分かりません。美由紀の実家は東京都府中市にありますが、そちらにも全く連絡は無いそうです。探索者達は結婚式で美由紀の両親を見かけたことがありますが、それから三年しか経っていないというのに二人はまるで十年も歳を取ったような様子です。世間一般の見方が  美由紀が成二殺害→失踪  となってしまっているので心労でそうなってしまったのです。  もし美由紀の両親に成二と美由紀の様子について尋ねるなら、以下のようなことが分かります。 ・つい二ヶ月くらい前までは二人は二週に一度くらいの割合で実家を尋ねていた。 ・一ヶ月くらい前からぱったりと来なくなってしまったので心配して電話したところ、成二の仕事が忙しくて行けないのだという返事だった。  探索者達の帰り際、美由紀の母親はこう呟きます。 「一体どうしてこんな事になってしまったのか…あの子は人を殺すような子じゃないんです。どうか…どうか信じてやって下さい」  なお、成二の実家は長野県上諏訪町にあります。探索者達がそちらを尋ねた場合、年老いた母親が出迎えます。父親もいる事はいるのですが、成二の死後ふさぎ込んでしまい、東京から来たという探索者達にも会おうとはしません。  成二の実家で聞ける話も大したことはなく、以下の通りです。 ・二人はとても仲が良かった。 ・正月には顔を出していた。  探索者達の帰り際、成二の母親はこう尋ねます。 「あの子がこんな事になるなんて…一体何があったのか…その…本当に美由紀さんが…成二を?」  これら実家での聞き込みのシーンは実際には大して必要はありませんので、必要ならカットして「君たちは実家に行って聞き込みをしたが大した情報は得られなかった」としても構いません。 !!!廃病院  もしPC達が美由紀の夢の話(髪の長い女の夢)の事を思い出し、何か掴めるかもしれないとロイヤルヒルズの前の道を上っていくと、かなり長い間手入れをされていないのか、道はすぐに荒れ果て、所々生命力の旺盛な雑草に浸食されつつある緩やかな上り坂に変わります。そして、その荒れ果てた道を5分ほど行くと、突然、道が木の杭と針金で出来た粗末なバリケードでふさがれてしまっています。そして、そのバリケードには「私有地につき立入禁止」と書かれた看板がついています。  バリケードの向こうには黒い練鉄製のゲートと、さらにその奥に立つボロボロに朽ちたコンクリート製の廃墟が見えます。  探索者達がこの廃墟に興味を持ち、バリケードをよけてゲートをくぐるのは割と簡単に出来ます。しかし、廃墟そのものの扉は鉄の板がしっかりと溶接されていて、さらに窓には鉄格子がはまっている上に、頑丈な木の板が打ち付けられているため簡単に入ることは出来そうにありません。   風雨にさらされ赤黒いシミをいくつも付けたコンクリートの壁には地元の暴走族のものらしき落書きが大量にあり、周囲の地面には伸び放題に伸びた雑草に混じって花火の燃えかすや、コンビニ弁当の殻、スナック菓子の袋、ペットボトル、ビールの空き缶や空の酒瓶、色とりどりのBB弾、タバコの空き箱などのゴミが散乱しています。  探索者達が何とかして廃墟に侵入しようとよく調べれば、建物の外に取り付けられている非常階段の、三階の非常口の扉の鍵がドライバーのような物でこじ開けられているのが分かります(<目星>)。  非常口から侵入した探索者達の目の前に広がるのは昼間でもほとんど真っ暗な(ガラス窓に全て板が打ち付けられているため)、荒れ果てた廃墟です(図 参照)。至る所の壁にスプレーで落書きがされ(●●参上とか)、床にはゴミ(成人向け雑誌の切れ端、BB弾、錆びた鉄パイプ、ジュースの空き缶や空き瓶、スナック菓子の空き袋、割れたガラスのかけら等)が散らかっています。  また、各部屋にはベッドなどの道具が(あちこち荒らされたり、放置された年月にふさわしく錆びたり、黴びたりしてはいますが)一応残されています。  病院内はかなりの部屋があるためいちいち描写しきれませんので、以下に重要なポイントだけを示します。それ以外の場所は病室ならベッドなど、その部屋にふさわしい道具と、ゴミが散らかった部屋だと思って下さい。 !病院について  この病院は「北村病院」と言い、昭和37年に開業した精神病院です。鉄筋コンクリート3階建てで、当時としてはそれなりの設備を持った病院で、都の指定病院として措置入院(犯罪を犯したが精神鑑定の結果、責任能力なしとされた被告人を入院させておく)のための病室が8室ありました。  しかし、この病院は開業当初から入院患者の不可解な死、自殺、事故、勤務している医師、看護婦のノイローゼ、自殺、事故等が相次ぎ、さらには院長が投資に失敗して莫大な借金を抱え込み、夜逃げしたため(実際には黄泉の世界に連れ去られたのですが、世間ではそう思われていました)昭和49年に閉鎖され、以後40年近くの間、放置されてきました。  しかし、昨今、廃墟ブームが持ち上がり、この病院廃墟にもたくさんの招かれざる訪問者等が訪れるため、管理している建設会社が窓という窓に板を貼り、扉に鉄板を溶接するという対策に出、現在では一段落しています(それでも、鍵をこじ開けたりして内部を探索する猛者もいるようですが)。  特に描写がなくとも、殆ど全ての部屋は荒らされ、床にゴミが散らばり、ベッドの手すりなどの金属部分が錆びているような状態ですが、1階、2階、3階と上にあがるに従ってその度合いは減少します。  また、大抵の床には埃がうずたかく積み上がっています。  なお、この探索は基本的に昼間の方がいいでしょう(夜に行ってしまうと、そのまま地下2階まで降りてしまい、何だか分からないうちに黄泉津醜女に殺されてしまう可能性があります)。 !3F  重症者用の階です。 !!倉庫  倉庫です。雑多ながらくたが散らばっています。特にこれといった物はありませんが、<目星>に成功すれば新品の(と言っても当時の物ですが)ナース服が見つかります。 !!階段  階段室です。普通の病院と異なっているのは鉄の扉が付いている事でしょう。降りれば2階に行けます。 !!エレベーター  エレベーターです。当然動いてはいません。エレベーターは1階で止まっています。 !!トイレ(B)  職員、面会者用のトイレです。男女別で、女性用は個室が3つ、男性用は個室2つに小便器3つがあります。 !!扉  病室のあるエリアに行くためには鉄の扉を開けないと行けない作りになっています。扉にはのぞき窓(鉄格子付き)もついています。どちらのドアも裏側にはノブが付いていないため(<目星>で気づく)、完全に閉めてしまうと出られなくなってしまいます。 !!緑色のエリア  措置入院のための特別病室のあるエリアです。特別病室は3畳程の広さのリノリウムの床の部屋が全部で8室あり、それぞれにはベッドと、簡易トイレがあります。  また、どの部屋のドアも鉄格子で作られていて、病室というより「独房」といった方が相応しい部屋です。鉄格子の下から50センチほどの所には開閉式のスリットと台が付けられていて、ここから食器を出し入れしていたようです。鉄格子はどれも鍵が開いていて、自由に入ることが出来ます。  鉄格子の脇にはネームプレートを入れるホルダーが付けられていて、8号室のものにだけ「山口奈津子」と言う名前の書かれた、黄色く変色した紙が挟まっています。  さらに、8号室の壁には「愛(うつく)しき我(あ)が汝兄(なせ)の命、かくしたまはば、汝(いまし)の國の人草、一日(ひとひ)に千頭(ちかしら)絞(くび)り殺さむ」という言葉が書かれています。  8号室に入ればすぐに分かりますが、表紙の黄ばんだノートと文庫本が見つかります。  窓はありません。また、このエリアに限り全く荒らされた様子がありません。 ""文庫版の書籍 "" 文庫版の書籍は鈴木三重吉の古事記物語です。調べればすぐに分かりますが、途中のページにしおりが挟まれています。ページの内容は以下の通りです。文末にプレイヤー資料として添付していますので、切り取るなどしてプレイヤーに渡してあげて下さい。あるいは、古事記が手に入れば直接該当ページにしおりを挟んで渡してあげても良いと思います(その方がリアリティが増します。この場合には説明文はその本に合わせて下さい)。 ""『すると、その坂の下には、ももの木が一本ありました。 "" 神はそのももの実を三つ取って、鬼どもが近づいて来るのを待ち受けていらしって、その三つのももを力いっぱいお投げつけになりました。そうすると、雷神たちはびっくりして、みんなちりぢりばらばらに遁(に)げてしまいました。 "" 神はそのももに向かって、 ""「おまえは、これから先も、日本じゅうの者がだれでも苦しい目に会っているときには、今わしを助けてくれたとおりに、みんな助けてやってくれ」とおっしゃって、わざわざ大神実命(おおかんつみのみこと)というお名まえをおやりになりました。 "" そこへ、女神は、とうとうじれったくおぼしめして、こんどはご自分で追っかけていらっしゃいました。神はそれをご覧になると、急いでそこにあった大きな大岩をひっかかえていらしって、それを押(お)しつけて、坂の口をふさいでおしまいになりました。 "" 女神は、その岩にさえぎられて、それより先へは一足も踏(ふ)み出すことができないものですから、恨(うら)めしそうに岩をにらみつけながら、 ""「わが夫の神よ、それではこのしかえしに、日本じゅうの人を一日に千人ずつ絞(し)め殺してゆきますから、そう思っていらっしゃいまし」とおっしゃいました。神は、 ""「わが妻の神よ、おまえがそんなひどいことをするなら、わしは日本じゅうに一日に千五百人の子供を生ませるから、いっこうかまわない」とおっしゃって、そのまま、どんどんこちらへお帰りになりました。』 ""表紙の黄ばんだノート(入院患者の日記) "" 表紙の黄ばんだノートは日記帳で、A5判の大きさで古ぼけて紙の周囲が黄色く変色していて、表紙に女性の物らしい細い字で書かれた日付は「昭和49年」となっています。また、裏表紙には『山口奈津子』と書かれています。 "" 日記を読んでみて辛うじて理解できるのはこの山口奈津子なる筆者が昭和49年当時どこかの病院に入院していたらしい事だけです。 "" <心理学>または<医学>1/2のロールに成功した探索者は、この日記が統合失調症患者に特有の妄想を元にした非常に散文的な文章で構成されているのが分かります。 "" ちなみに、日記は日記帳を使用しているだけで、普通の日記のように日付毎にその日に起こった出来事が書かれているわけではなく、ある時は日記風に、またある時は手紙風に書かれていて、正確には日記とは呼べない物です。また、日付もまちまちで、でたらめに並んでいます(それも、昭和88年13月35日等というでたらめな日付が)。 "" "" さらに、1D3日ほどの時間をかけ、<日本語読み書き>と<心理学>のロールに成功した探索者はこの筆者が「病院の地下2階の大きな扉」から「あの女」が現れていつか自分を連れていく気だ、との妄想を持っていた事が分かります。筆者は「あの女」とは、長い髪を垂らした女で、鏡から鏡へ移動する「力」を持っている、「別の次元からやってきた女」だと考えていたようです。 "" かろうじて意味らしきものを読みとれるのはそれくらいで、その他には「古い古い祠」「ストーン・サークル」「扉の向こう側は黄泉の国」「黒い石を見つけなければ大変なことになる」「虫がやってくる」「祭り」「連れ去られた者達」等のおおよそ意味不明な文章が散文的に散らばっているだけです。 "" また、それ以外には「医師や看護婦は別次元からの監視者である」とか「昭和65年に宇宙から色がやってきて人間を入れ替えてしまったからイギリス人はアメリカに逃げ出した」「牡蠣はあんなに繁殖力が旺盛なのに太平洋の海底が牡蠣で覆われないのは何故だろう?」等という妄想を持っていたようです。さらに、日記の最後の記述は「昭和49年8月18日 暗黒の月、扉の向こう側から今夜やってくる 私には石を見つけられなかった 助け」という、明らかに今までのページのきちんと罫線に納められ、わりと几帳面に書かれた文字とは違う、罫線をはみ出して斜めに書き殴られた言葉で唐突に終わっています。 "" この『入院患者の日記』を読んだ者は、<クトゥルフ神話>の技能を3ポイント獲得し、正気度を1D4ポイント失います。 "" なお、昭和49年8月18日を調べた場合<図書館>、新月であることが分かります。 !!ピンク色のエリア  重症患者用の病室です。腐ったベッドマットの乗った8人分のベッドと、壁に意味不明の(恐らく患者が書いたと思われる)消えかかった落書き(久遠に臥したるもの、死することなく。怪異なる永劫のうちには死すら終焉を迎えん<日本語読み書き>)があったり、明らかに侵入者がスプレーで書いたと思われる卑猥な落書きなどがあります。窓には全て鉄格子が付いています。 !!処置室・診察室  2箇所ありますが大きさが違うだけで設備は大体同じです。医師用のスチール製の机、イス、患者用のイス、ベッドがあります。  机には引き出しはありません。 !!面会室  2畳くらいの広さの小部屋です。机とイスが2脚あり、壁には「面会簿 昭和49年」と書かれた大学ノートが下がっています。ノートには「面会は30分以内にして下さい」と注意書きも書かれています。  面会者はほとんどいなかったようで、最初の2ページほどしか埋まっていません。また、最後の記述は昭和49年9月になっています。 !!ナースステーション  3階中央のかなりのスペースをしめるナースステーションですが、壁のほとんどの部分が分厚いガラスになっていて、ほとんどの病室が見渡せるようになっており、ナースステーションと言うよりは監視ブースと言った趣です。 スチール製の机や棚があります。棚の中身は少量の医薬品のアンプル(睡眠薬が主です)、分厚いファイルなどですが、ほとんどが床に散乱しています。  また、壁にかかった大きなホワイトボードにはほとんど消えかけてはいますが「山口奈津子」という名前が書かれているのが見えます(<日本語読み書き>)。 !!浴室・トイレ(A)  入院患者用の浴室とトイレです。  浴室は細かい薄緑色のタイルが貼られたレトロなもので、一応シャワーが付いています。浴室自体の大きさは10畳ほど、浴槽のサイズは大人が4人入れるくらいです。鏡は割られてしまったのか、付いていません(調べても、その破片はありません。かつてこの病院がまだ機能していた頃に、山口奈津子が割ってしまったのです)。  浴槽に隣接している脱衣所の入り口には「月・火・水・木・金・土・日という曜日と、その下に男・女」などと書かれた板が付いています。  <アイディア>に成功すればどうやらこの浴室は日替わりで男性患者、女性患者と交互に使われていたらしいことが分かります。  トイレは男女別です。普通のトイレで、女性用は個室が5つ、男性用は個室が3つと小便器が5つ付いています。 !2F  軽症者用の階です。  病室部分に行くためには鉄の扉を入らなければならないのは同じですが、食堂やラウンジなどもあり、また浴室も男女別です。 !!倉庫  3階と同じ様な状態で、雑多ながらくたが床一面にぶちまけられています。隅に積まれた黄ばんだ新聞紙には「ニクソン大統領がウォーターゲート事件で辞任」の記事が一面を飾っています。これを調べると、大体昭和49年頃の新聞であることが分かります。  また、大体昭和48〜49年ぐらいまでの雑誌も積まれています。 !!階段室  3階と同じく鉄の扉が付いた階段室です。 !!エレベーター  3階に同じ。 !!トイレ(B)  これも3階に同じ。ただ、こちらはかなり荒らされていて個室の壁には穴が空いています。 !!ナースステーション  3階のナースステーションの威圧的な趣とは違い、ここは普通の病院のナースステーション風です。中にはスチール製の机が置かれていますが、やはり荒らされています。スプレーの落書きで荒らされまくった壁には、昭和49年のカレンダーがぽつんと残されています。 !!病室への扉  3階と同じく、病室部分に入るための扉です。スプレーで「この先はヤバイ」等と落書きがされています。内側にはドアノブか付いていません(<目星>で気が付きます)。 !!病室  基本的には3階と変わらず、リノリウム貼りの床にベッドが置かれており、窓には鉄格子がはまっています。ベッドにはマットが残されている他、202号室には色褪せた千羽鶴がぽつんと残されています(別に意味はありません)。 !!ラウンジ  患者用のラウンジ兼喫煙室です。オレンジ色のプラスチック製のイスが何脚か置かれ、隅のマガジンラックには昭和49年頃の雑誌が残されています。また、壁際には古くさい回すチャンネル式のテレビがひっくり返っています。  壁には「たばこの火を希望される方はナースステーションまで」と書かれたプラカードが下がっています。  至る所にゴミが散らかり、いすはひっくり返ったりしています。また、壁にはお決まりの落書きもあります。 !!診察室・処置室  3階に同じ。 !!面会室  3階とほぼ同様ですが、3階よりは面会者が多かったようで、面会簿は半分ほど埋まっています。 !!浴室・脱衣所  こちらは3階とは違い、男女別に分かれています。タイル貼りなのは同じですが、浴室の大きさなどは3階よりは多少大きめです。 !!トイレ  3階と同様です。 !!独房  食堂のちょうど真向かいの3部屋は今までの病室とは少し違い、独房という趣です。この3部屋は扉ではなく鉄格子になっていて、広さは2畳程、中はコンクリートむき出しの床に1畳分だけの腐った畳、その上には腐った布団があります。  また部屋の奥には簡易トイレが正面を向いて置かれています。  キーパー情報ですが、この部屋はかつて態度の悪い患者などを閉じこめておく懲罰房として使用されていました。 !1F  ここは調理室・事務室等のある、病院の中枢部分です。北村病院は外来も受け付けていたため、そのための施設もあります。また、意外に思われるかもしれませんがこの病院には歯科の診察室や理容室もあります。もっとも、これらは病院から外に出ることの出来ない(出さない)入院患者用の施設で、外部の人間には開放はされていませんでした。さらに、同様の理由で当時は内科医も勤務していました。  この階の荒らされ方がもっとも酷くなっています。暴徒が一個師団やってきて、破壊の限りを尽くしたような感じです。窓という窓は(受付の窓でさえも)割られ、至る所にスプレーで落書きがされています。また、イスなどの備品はあっちに散らばり、こっちに転がりといった状態で、一つとしてまともな状態ではありません。 !!階段室  3階、2階と同じです。ここにも、鉄の扉がはまっています。 !!エレベーター  止まっています。扉には「故障中」と書かれた、黄ばんだ紙が貼られています。また、扉を開ければエレベーターの中に入れますが、一歩足を踏み入れる度にギシギシきしんで今にもワイヤーが切れて落下しそうな雰囲気です。 !!トイレ  3階、2階の職員、来賓用トイレと同じです。 !!X線機械室  レントゲン用の機械の操作室です。扉には「放射線エリア関係者以外立入禁止」と、放射線のマークが書かれたプレートが付いています。中には旧式のレントゲン用機械がありますが、半ば破壊されています。 !!X線検査室  レントゲン撮影室です。扉には「放射線エリアみだりに立ち入らないこと」と書かれたプレートが付いています。中には旧式のレントゲン機械がありますが、やはり破壊されています。 !!手術準備室・シャワー室  手術の準備をするための場所で、部屋の壁に並べられたスチール製の棚には、膿盆や鉗子など、医療器具がそのまま放置されています。また、一部のガラス器具などは床に投げ出され、割れています。  また、部屋に入ればすぐに分かりますが、やたらと蠅が多く、非常な悪臭が(ぶっちゃけて言えばウンコ臭い)します。悪臭はシャワー室に続く扉を開けると一層酷くなります。  その隣のシャワー室は手術前に医師が身体を洗った場所です。狭く、人が二人入ろうものなら一杯になりそうです。その狭い空間にすさまじい悪臭が立ちこめていて、5分もいたら気分が悪くなりそうです。  床にシャンプーの空き容器が転がっている以外は(蠅が多い他は)何もありませんが、何故か床が嫌に汚れていて、浴槽には蓋がしてあります。  探索者達が蓋を開ければ、ものすごい悪臭が一気に広がります。それにもめげずに浴槽内をのぞいた探索者は、浴槽の中に何故か人糞尿が蓋近くまで溜まっているのを確認できます。また、糞尿の一番上には大きな真っ白いウジ虫が大量にいるのに気づきます。(正気度0/ 1d2) !!手術室  中央にはまるで拷問台の様なグロテスクなスタイルの手術台があり、その上には丸い無影灯が壁から張り出しています。周りには心電図計測用の機器などが散らばり、何処から持ってきたのか、手術台の上には裸のマネキンが転がされています。  壁際に置かれたスチール棚には様々な医療器具が残されています。  キーパー情報ですが、ここでは主にロボトミー手術(脳の一部を切開して精神病の治療を試みる手術)が行われていました。 !!歯科診療室  外来で歯科をしていたわけではなく、入院患者用の歯科診療室です。赤くさび付いた古い診療用のいすが2つ、大して広くない室内に残されています。いくつかの診療用具が床に散らばっています。 !!電気療法室  壁際には何やら黒いつまみやスイッチの大量に付いた機械が置かれています。機械のパネルの文字は所々かすれていて、さらにあちこち赤く錆び付いています。また、反対側の壁際には黒いクッションの付いた簡易ベッドがあります。おそらくここに患者を寝かせ、何やら怪しげな治療を行ったのでしょう。 !!診察室  診察室です。スチール製のデスクや黒いクッションの付いた簡易ベッド、椅子などがあります。隣の処置室とはカーテンで仕切られているだけだったようですが、今ではカーテンはびりびりに破かれ、わずかに切れ端が下がっているだけです。 !!処置室  診察室と続き部屋の処置室には、簡易ベッドが2つと、普通のベッドが1つあります。壁際には包帯やアンプルなどの入ったスチール製の棚が並んでいます。また、衝立が1つ、倒れています。 !!薬局  透明なプラスチックの引き出しの付いた棚が所狭しと並んでいます。多くの引き出しは開けたままにされていて、中身の錠剤やアンプルなどが床に散らばっています。中には赤いラベルの「劇薬」のアンプルもあります。<薬学>もしくは<医学-10%>のロールに成功すればそこにある薬の大部分が睡眠薬の類であることが分かります。 !!応接室  薄汚れた茶色いソファーが置かれ、その上には何故か布団や男物の衣類が数点、残されています。どれもかなり汚れている上に湿気っています。テーブルは隅に追いやられていて、その上には2年程前の雑誌や煙草の吸い殻などがあり、どうやら2年くらい前にはここに人が寝泊まりしていたらしいことが分かります。テーブルの側にはおそらく家財道具なのであろう、カビの生えた衣類、少々の小銭などの入った紙袋が置かれています。<アイディア>ロールに成功すれば、この部屋の状況から、ここに住んでいた人物(おそらく浮浪者でしょう)は家財道具を残したまま、突然どこかに姿を消したことが分かります。  また、紙袋を調べれば、古いテープレコーダーを見つけることが出来ます。このテープレコーダーは汚れていますが辛うじて動きます。(別で見つかるカセットテープを再生するためのアイテムです。探索者が別に用意すれば済むので必須ではありません)。 !!待合室  正確に言うと部屋ではなく、廊下の一部です。薄汚れたソファーが壁に沿って置かれ、また、真ん中辺りにもソファーがひっくり返っています。ソファーの上には埃が厚くつもっていて、ここしばらく、誰もそれに触れていないのが分かります。 !!受付・事務室  受付の窓口はカウンターになっていて、その上にはガラスで仕切が付いていたようですが、現在ではそのガラス部分は全て丁寧にも割られてしまっています。事務室は真ん中の方にいくつものスチール製の机がまとめられていて、その上には黒電話やファイルケースなどが載っています。  また、机の引き出しの多くは開けられていて、中身だったらしい書類がぶちまけられ、さらには火を付けたのか、天井や壁の一部が焦げています。  壁際にはカルテを収めているらしい木製の棚がいくつもあり、一つ一つの段に「あ〜わ」までの見出しが付けられています。中にはまだカルテが大量に残されていますが、一部は書類と一緒に燃やされた様で、ごっそり無くなっている部分もあります。また、どこからか雨水が漏れていたのか、棚の一部は長期間水に濡れていた様で、シミが出来、一部は腐っています。  もし探索者がこの棚を調べるなら<目星>「山口奈津子」と書かれた茶色い箱が隅の方の棚に置かれているのが分かります。中にはカルテや、精神鑑定書、何本かのカセットテープを見つけることが出来ます。しかし、不幸にも箱は水浸しになっていた時期があった様で、カルテなど紙類は一部が貼り付いてしまっています。<医学>または<心理学>のロールに成功すれば、カルテなどの内容から、「山口奈津子」なる人物が「分裂病分類不能型」と診断されていたことが分かります。カルテには、興奮、混迷、無為自閉、拒食、感情鈍磨、疎通性障害、滅裂思考、被害妄想、関係妄想、注察妄想、追跡妄想、心気妄想、被毒妄想、家族否認妄想、幻聴、幻視、体感幻覚、考想吹入(こうそうすいにゅう)、考想奪取、考想察知、自閉、自傷行為、他害行為、カタレプシー、徘徊等の用語が見られ、一言で言うと相当重症であったことがうかがわれます。また、一緒に見つかった精神鑑定書などから、奈津子が18歳の時に両親を殺害し、措置入院させられていたと言うことも分かります。  カセットテープについては湿気のせいか損傷が激しく、10本あったうちの1本だけがどうにか再生できます。しかし、その内容も狂った様な女性の悲鳴と、「あの女がやってくる」というような内容の意味不明の叫び声、ドアに体当たりする音、医師達のものと思われる緊迫した話し声だけです(「安定剤!」「身体押さえて!」等)。  他に、受付の辺りの床を調べれば、この病院の物と思われるパンフレットが大量に落ちていることに気が付きます。それによると、開業したのは昭和37年で、病床数108の中規模な病院であったらしいということ、院長の名前が北村純一だったということ、東京都の指定病院になっていた、ということが分かります(指定病院というのは要するに、措置入院―殺人などの犯罪を犯したが精神鑑定の結果、責任能力がないとされた者を入院させておくこと―をさせるための病院ということですが、パンフレットにはただ「東京都指定病院」とだけしか書かれていません)。  指定病院、の意味は<知識>もしくは<医学>ロールでわかります。 !!正面玄関  ガラス製の内開き式のドアです。ガラスは全て割れていて、金属製のフレームだけになっています。現在は鉄板が溶接されていて、開きそうにありません。 !!扉  院長室、調理室などのエリアにはいるためには扉を開ける必要があります。扉は鉄製ですが、階段室にあったような窓に鉄格子の付いたものではなく、普通の、クリーム色に塗られた扉です。鍵は掛かっていません。 !!院長室  立派な木製の机と小さめな応接セット、壁際には古めかしい金庫が置かれています。床は赤いふかふかの絨毯だったらしいのですが、現在では赤黒く変色していてさらにその上に厚く埃が堆積しています。<アイディア>ロールに成功すれば分かりますが、この部屋に最近人が立ち入っていないのは明かです。  机の脇には枯れた観葉植物の鉢が置かれたままになっています。  また、机の後ろの壁には賞状や「院長 北村純一」と書かれた写真が掛かっています。かつての院長は黒縁の眼鏡を掛けた太り気味の初老の男のようです。  この部屋も例外なく机の引き出しがあさられています。中には少々の書類と古めかしい筆記用具が残っているだけですが、<目星>に成功すれば1960年代のモンブラン149が見つかります(古い太軸の万年筆で、キャップに白い模様がついている、と言うような描写の方が良いかもしれません。綺麗にしてネットオークションにでも出せばそこそこの値がつきます(<値切り>で価値が分かります)。特にシナリオ本筋とは関係ありません)。書類の一部は床に捨てられています。 !!職員食堂  たくさんの大きな安物のテーブルと椅子が並べられた、食堂です。一部は調理室と繋がっていて、調理室から直に配膳できる様になっています。隅には古ぼけた大きなやかんがまるでボール代わりにしてサッカーでもしたかの様にベコベコにへこんで転がっています。 !!調理室  大型の炊飯器、鉄板、まな板など、業務用の調理器具の置かれている調理室です。どれも埃まみれの上に錆びていて、とても使えそうにはありません。また、<目星>に成功すれば、ボロボロに錆びた包丁を見つけることが出来ます。  調理室には外に出られる金属製の扉があります。内側からカギがかかっているだけなのでカギを外せばここから侵入することが可能になります。 !!理容室  歯科診療室と同じく、入院患者用の施設です。床屋用のシャンプー台が2台、設置されていますが、その向こうにあったと思われる鏡は全て割られています。 !!リネン室  腐ったシーツなどが棚にうずたかく積まれている部屋です。 !!消毒、洗濯室  オートクレープ装置、大きな洗濯機などがあります。ただし、どちらの機械も動きません。 !!霊安室  部屋の内装に使われた、白い襞付カーテンと、奥にぽつんと置かれた白木の祭壇をみればここがどこかは説明しなくとも分かるでしょう。 !!B1F  ここはボイラー、機械室などの他に職員用のロッカー等かあるフロアです。かび臭く、湿った空気がよどんでいて、思わず入るのを躊躇われるような場所ですが、相変わらず荒らされています。また、このフロアは懐中電灯などの装備がなければ探索は不可能です。 !!階段室  このフロアの階段室には鉄の扉は付いていません。それ以外は他の階と同様です。また、探索者達が奈津子の日記に基づいて地下2階への階段を探しても、そんな物は影も形も見つかりません。(※夜中に訪れた場合は別です) !!エレベーター  普通のエレベーターです。 !!仮眠室  一番奥が女子用になります。内部はどちらも同じ作りで、作りつけの二段ベッドが両方の壁際に置かれ、都合4つのベッドがあります。また、ベッドには湿った布団が残されています。 !!トイレ  職員用のトイレです。女子用は個室が3つ、男子用は個室が1つと小便器が2つあります。 !!シャワー室  男子用と女子用に分かれ、奥が女子用です。どちらもシャワーが2つついています。 !!職員ロッカー・更衣室  男子用と女子用に分かれています。どちらもスチール製のロッカーがたくさん並んでいます。ここにも招かれざる客が訪れたのか、いくつかのロッカーの扉が開いたままになっています。ロッカーの扉に黄ばんだシールが貼られている物もありますが、私物は持ち去られていて何も残っていません。 !!電気室  病院全体の電力を制御する制御板や小型の自家発電器等があります。機械は鉄パイプなどで殴られたのか、あちこちひしゃげ・錆び付いています。 !!汚水・雑排水槽  大きなタンクとポンプらしき機械があり、あちこちに太いパイプが走っています。パイプから水が漏れたのか、あちこちの床にシミがあり、キノコが生えています。 !!機械室  上下水用の大型の電動ポンプが埃をかぶって、錆び付いています。 !!ボイラー室  錆び付いた大型のボイラーがあります。部屋中を走る太いパイプと相まって、異様な雰囲気です。  昼間の場合、地下1階の何処を調べても、奈津子の日記にあるような地下に行けるような階段はありませんし、隠し扉や隠し部屋のような物も存在しません(大体、普通の病院にそんな物が存在するはずありません)。  但し、探索者達が夜にこの病院の廃墟を訪れた場合は事情が異なり、新月の日と探索者たちが事件の真相をほぼ知っている状態では階段室に地下2へ降りる階段が現れます(詳しくは『事件の真相』参照)。見ればすぐに分かりますが、この階段はコンクリート製の他の階段とは違い、まるで岩をくりぬいたような自然物に近い階段です。この階段を下ると、そこにはもう一つスチール製の扉があります(この扉は2階、3階の階段室に付いていた物と同じ、のぞき窓に鉄格子付きの物です)。  さらにその扉を開ければその先はまっすぐな廊下になっています。壁も廊下も1階と同じくクリーム色に塗られていて、その両側には8対の扉が付いています。扉は1階の事務室などの扉と同じ、スチール製で壁と同じ色に塗られています。  この扉の中は全て霊安室になっていて、棺が一つと祭壇が置かれています。もし棺を開ければ、そこには探索者(棺を開けた本人。何人かで開けた場合は誰か一人)が横たわっています(正気度チェック。1D4/1D6)が、棺が開けられると目をかっと見開いて起き上がり、襲って来ます。  廊下の一番奥にはひときわ大きな鉄製の両開きの扉が付いていますが、真っ赤に錆びています。この扉はいかにも凶々しい雰囲気を漂わせており、両方の扉の真ん中には五芒星のような模様が描かれています(正確には古き印です)。また、扉には太いしめ縄が張られていたようですが、現在ではその一方がちぎれて外れてしまっています。実のところ、この扉が『道返しの大岩』の役目をしていたのですが、現在ではその封印が外れかかってしまっています。探索者がその事に気づくかどうかがこのシナリオの最後の分岐点です。気づかずに扉の中で石を使うと探索者たち自身も閉じ込められてしまいます。探索者が不慣れな場合はそれとなくヒントを出しても良いでしょう(<幸運><オカルト>等のロールに成功したらこの扉が封印なのではないかと気づく、等)。 ""幽鬼 ""棺を開けた本人のPOWで対抗ロールをします。 ""対抗ロールに負けた方は1D3ポイントPOWを失います。 ""幽鬼のPOWが0になった場合、幽鬼は消滅します。  また、地下二階の廊下には幽鬼となった美由紀がいて、探索者達が鉄の扉から中にはいると駆け寄ってきます。そして「お願い、助けて…私も連れて行って…」と言いながらPOWが最も低い探索者の手を掴んできます。その手は氷のように冷たく、手を掴まれた探索者は振り払わない限り1ラウンドにつきCONを1D3失います(これは1D6日間の療養で回復します)。振り払うにはPOWの対抗ロール(美由紀のPOWは8)を行い、成功する必要があります。対抗ロールに成功した場合(その際に美由紀はPOWに1点のダメージ、POWが0になれば美由紀は消滅してしまいます)はその手を振り払うことが出来、美由紀は泣きながら「どうして? どうして私を連れて行ってくれないの? ねぇ?」と言ってその場にいる別の探索者の手を掴みます。美由紀は何度失敗しても泣きながら全ての探索者に対抗ロールを仕掛け続けます。いずれはPOWが無くなって消滅してしまうでしょう。  POWの無くなった美由紀は「どうして…」と悲しそうな表情で呟き、消えてしまいます。 !!扉の向こう側  奥の扉の向こう側は、突然開けた空間になっています。そこは海辺か河原のように丸い拳大の石がゴロゴロしていて、辺り一面に燭台が立てられ、蝋燭の灯が揺れています。天井や向こう側の壁などは霧でかすんで見えません。そして正面の10メートルほど向こう側に腰まで届くような長い髪をした、白い着物の女が立っています。女の顔は長く垂らした髪に隠れてしまい、分かりません。  また、<聞き耳>のロールに成功すれば、どこからか微かに雷鳴が聞こえてくるのが分かります。  ここが黄泉の国の入り口です。着物の女(これが、奈津子が日記に書いていた「あの女」です)は探索者達を見つけるとすぐに襲いかかってきます。  着物の女は黄泉津醜女です。普段は非実体のため、物理的攻撃はあたりません。また、壁などの障害物もすり抜けてしまいます。黄泉津醜女を倒すためには、  1.誰かが締め付けられている間に別の人物が攻撃する(黄泉津醜女は首締め攻撃をしてきますが、その際は実体化しています)  2.ご神木の桃の実(この後で説明します)を投げつける  3.魔法的攻撃  のどれかで攻撃をする必要があります。  基本的には黄泉津醜女にはご神木の桃の実を投げて撃退するか(呪術的アイテムなので投げるだけで撃退できます=判定の必要はありません)、逃げるしか方法はないでしょう。 ""黄泉津醜女 ""武器 組みつき 90% ""能力値などはクトゥルフ2010のヨモツシコメ(p74)を参照下さい。ただし、攻撃方法は首絞め攻撃だけに変更しています。組みつきと窒息のルールを適用して下さい。 ""また、攻撃時以外は実体化していないので壁などもすり抜けますし、攻撃しても当たりません。また、耐久力が0になると一時的に退散しますが、1D6時間後には復活します。 !!!調査  恐らく探索者達は美由紀の夢の話を手がかりに北村病院へとたどり着きそこから調査を開始するでしょう。  インターネットで北村病院について検索すれば、ロール無しでも廃墟探索、肝試しスポットとして一時有名だったことが分かります。 !!肝試しスポットについて 2年ほど前にその界隈ではそこそこ名の知られた廃墟探検家がこの北村病院に目を付け、数回の予備調査をしているブログを見つけられます。そのブログの最後の記事は「新月の今日、これから例の病院へ向かいます」という内容で、それ以後更新がぴたりと止まり、後日彼のバイクが北村病院の近くに放置されているのが発見されました。しかし、彼の姿はどこにも見当たらず、この謎の失踪に盛り上がった人たちがどっと押し寄せ、柵を設けても止まらない侵入事件に業を煮やした管理会社がすべての扉や窓をふさいでしまい、事態は次第に収束していきました。 その他、ネット等で情報収集した場合に手に入る情報は以下の通りです<図書館>。 末尾に(偽)としてある情報は噂に尾ひれが付いたタイプの正しくない情報です。探索者がゲームになれていない場合には省いても良いでしょう。 主な情報源はネットですが、付近に聞き込みして地元民から聞き出すことに成功すれば<信用>もしくは<言いくるめ>でも手に入ります。 また、八王子中央図書館では新聞の縮刷版が収蔵されているため、もし興味を持った探索者が昭和40年代の事件を調べれば東京都練馬区の少女Aが両親を鉈で惨殺したという事件についての記事が見つかります。この事件は昭和47年1月25日に発生、寝ていた両親の手足を鉈で切り落とし、それから命乞いをする両親を数日かけてばらばらにしたという殺害方法と、逮捕された少女Aの異様な言動からしばらくの間は新聞紙面にいくつもの記事が載っていましたが、昭和47年2月19日に浅間山荘事件が発生すると途端に取り扱いが小さくなり、浅間山荘事件が収束する頃にはすっかり世間からは忘れられていました<図書館>。 それからしばらくして、昭和49年8月19日の新聞にはこの惨殺事件(『練馬事件』と呼ばれていたようです)の犯人の少女が入院していた病院から忽然と姿を消したと言うことが報道されますが、結局の所彼女は見つからなかったようです(もし地元の古老から話を聞いた場合、当時付近一帯を山狩りしたというような話も聞けます)。 !!北村病院 ・元々は「北村病院」という精神病院だったが、20年以上前に廃業して以来、廃墟になっている ・廃業したのは患者の一人がフォークで院長をメッタ刺しにして殺してしまったからだ(偽) ・あの廃墟には幽霊が出る ・あの病院が廃業したのは資金繰りが悪化して院長が夜逃げしたからだ ・あの病院がある場所には、元は岩戸神社という神社があったが、病院を建てる際に近くに移した ・病院の建設中に平安時代頃の遺跡が発掘された ・あの病院はキモダメシの場所や、廃墟探索の場所として有名だったが、失踪騒ぎ(キモダメシに行った人間が帰ってこない等)が何度があったため、つい2、3年前に封鎖されてしまった ・あの病院は都の指定病院で、つまり犯罪を犯して精神鑑定を受け、責任能力無しとされた患者が入院していた。特に有名なのは『練馬事件』の少女Aがいたが逃げ出した ・かつてあの病院では人体実験が繰り返されていた。髪の長い女はその人体実験で顔を滅茶苦茶にされて死んだ女だ(偽) ・発掘された遺跡については郷土資料館に資料があるはず また、北村精神病院の周辺を調べれば、すぐ側の岩戸神社に気づき、その看板の内容を調査するかも知れません。その場合は郷土資料館や八王子中央図書館で情報が手に入ります。 !!郷土資料館  町の郷土資料館に行くと、北村病院の土地にあった遺跡について調べることが出来ます。  郷土資料館へ行き、2時間ほどの時間を掛けて<図書館>のロールに成功すれば、以下のような情報を入手することが出来ます。  遺跡は平安時代の物らしく、中心部分に1平方メートル程の大きさの石室が掘られていて、その周りに細長い石を放射状に並べた一風変わった環状列石風で、墓としては石室の大きさが狭い事から古代の祭祀跡ではないかと考えられている。  石室の壁面には五芒星によく似た文様が描かれていた。石室の中には何かが安置されていたようだが、発掘された時には既に空っぽだった。  また、資料館の郷土書籍コーナーには「八王子の民話」という本が(<図書館>で発見)あり、中には次のような話が載っています。  昔々、桃園の辺りには人をさらう鬼女がいて、村人達は大変おそれていた。  ある時、日本武尊命(ヤマトタケルノミコト)の東征のおり、命はこの地にやってきて宿を求めた。  命は村人から人をさらう鬼女の話を聞くと、鬼女を退治しに出かける。その日の晩、命が山で野宿していると、夢に一羽のキジが現れ、「これをお持ちなさい」と命に石を渡した。驚いた命が目を覚ますと、確かに命の手に石が握られている。その石を持っていく事にした命は鬼女の出てくるという穴へ行き、鬼女と対決する。命は草薙の剣で鬼の首をはねるが、鬼女は地中から次々に現れ命に襲いかかる。さすがの命も疲れ切り、弱り切ったところで、鬼女どもは一斉に襲いかかろうと身構える。  その時、命は夢を思い出し、持っていた石を掲げると、「道返大神(チガエシノオオガミ)、塞り(さや)給え防ぎ給え」と祈念して石を穴めがけて投げ込んだ。  石が穴の中へ吸い込まれていくと、突然、穴の中に雷鳴がとどろき、穴はしっかりと閉じてしまった。  以来、桃園の鬼は現れなくなり、村人達は命に感謝したという。  資料館で調べられる事は以上です。 !!八王子中央図書館  図書館で調べれば、郷土書籍コーナーで「八王子の民話」という本が見つかり、中には次のような話が載っています<図書館>。  昔々、桃園の辺りには人をさらう鬼女がいて、村人達は大変おそれていた。  ある時、日本武尊命(ヤマトタケルノミコト)の東征のおり、命はこの地にやってきて宿を求めた。  命は村人から人をさらう鬼女の話を聞くと、鬼女を退治しに出かける。その日の晩、命が山で野宿していると、夢に一羽のキジが現れ、「これをお持ちなさい」と命に石を渡した。驚いた命が目を覚ますと、確かに命の手に石が握られている。その石を持っていく事にした命は鬼女の出てくるという穴へ行き、鬼女と対決する。命は草薙の剣で鬼の首をはねるが、鬼女は地中から次々に現れ命に襲いかかる。さすがの命も疲れ切り、弱り切ったところで、鬼女どもは一斉に襲いかかろうと身構える。  その時、命は夢を思い出し、持っていた石を掲げると、「道返大神(チガエシノオオガミ)、塞り(さや)給え防ぎ給え」と祈念して石を穴めがけて投げ込んだ。  石が穴の中へ吸い込まれていくと、突然、穴の中に雷鳴がとどろき、穴はしっかりと閉じてしまった。  以来、桃園の鬼は現れなくなり、村人達は命に感謝したという。 !!新聞の縮刷版  もし興味を持った探索者が昭和40年代の事件を調べれば東京都練馬区の少女Aが両親を鉈で惨殺したという事件についての記事が見つかります。この事件は昭和47年1月25日に発生、寝ていた両親の手足を鉈で切り落とし、それから命乞いをする両親を数日かけてばらばらにしたという殺害方法と、逮捕された少女Aの異様な言動からしばらくの間は新聞紙面にいくつもの記事が載っていましたが、昭和47年2月19日に浅間山荘事件が発生すると途端に取り扱いが小さくなり、浅間山荘事件が収束する頃にはすっかり世間からは忘れられていました<図書館>。 それからしばらくして、昭和49年8月19日の新聞にはこの惨殺事件(『練馬事件』と呼ばれていたようです)の犯人の少女が入院していた病院から忽然と姿を消したと言うことが報道されますが、結局の所彼女は見つからなかったようです。  図書館で調べられる事は以上です。 !!岩戸神社  岩戸神社はかつては北村病院のある辺りにあったのですが、北村病院を建設する際、すぐ近くに移築されています。もともと社務所もないような、神社と言うよりは祠と言った方が良いようなものだったのですが、現在ではコンクリート製の小さな鳥居と、水の入っていない手水舎、小さな拝殿とその奥にさらに小さな本殿のある、小さな神社となっています。本殿の側にはしめ縄の張られた山桃の木<生物学>もしくは<知識>があり、実が2〜3個、なっています(これは、どの季節でも同じです)。<生物学>のロールで成功すれば、春先に桃の実はならないはずだということに気が付きます。 山桃の木の側には『時知らずの山桃』と題された小さな古びた看板が立っています(以下参照)。看板は文字が所々かすれていますが、何とか読むことが出来ます。 ""『時知らずの山桃 ""昔からこの辺りには山桃の木が生えていたが、必ず一株は一年中瑞々しい実のついたままの株があり、「時知らずの山桃」と呼ばれている。(八王子市郷土資料館発行、八王子の民話より)』  拝殿の扉はガラスの張られた格子戸で、鍵はかかっていません。中には白い紙で作られた御幣が置かれています。  本殿の扉は頑丈な木製で、外からでは中は見えません。また、やはり鍵はかかっていません。  もし探索者達が扉を開けるなどすれば、中にはご神体として丸くて平たい、大人の拳2つ分ぐらいの石が置かれています。石の表面にはもうほとんど摩滅してしまってはいるものの、微かに何かの紋章が刻まれていた跡があります。<オカルト>のロールに成功すれば、その紋章が五芒星に似ている事に気づく事が出来ます。  また、この文様を見て<クトゥルフ神話>のロールに成功した探索者は、その文様が古き印に似ていることに気付きます。 拝殿脇には山桃の看板と同じような看板があり、 ""『岩戸神社 ""ご祭神:道返大神(チガエシノオオカミ) ""由緒:昔、この辺りには鬼女が出て村人を苦しめていたが、東征の折に立ち寄った日本武尊命によって鬼女は退治されたという。この神社はその際に使われたという塞ぎの石をご神体にしたものと伝えられている』 と書かれています。これらの看板は鳥居や本殿などと同様、病院建設のために神社を移築した際に北村院長が付けさせたものです。たたりを恐れたと言うわけではないのですが、立派な施設を作っておけば神様も満足だろう的な発想の元に作られました(何の意味も無かったわけですが)。  もし探索者達が法務局で土地の登記簿を調べるなどした場合、北村病院の所有者は東京中野区に本社のある「帝京不動産」という中堅の不動産会社が所有していることが分かりますが、以前の失踪騒ぎで懲りているのでオカルト雑誌などの取材、等と言っても断られます。買うようなそぶりを見せる等、不動産会社にとって利益のありそうな内容の話をもっていけば担当者が会って話はしてくれるでしょう。  その場合は元々精神病院だった事や昭和49年頃に閉鎖されて以降ずっと空き家だった事などが分かります。また、失踪騒ぎの話なども(あまり気乗りのしない様子で)聞き出すことも出来ます。ただし、あまりそういう方面の話ばかりすると怪しまれます。その場合は<言いくるめ>や<信用>等が必要になるかも知れません。  ただし、不動産会社の人自身も病院になる前のことなどは知りません。 !!!事件の真相  今現在、ロイヤルヒルズ緑ヶ丘が建っている場所は、かつては「桃園」と呼ばれていました。この場所には古代より黄泉の国へとつながる場があり、そこから黄泉津醜女が出てきては人々をさらっていたのですが、いつの頃からかその場を石で封じ、その上に祠を立てて人が近何かないようにしてきました。さらにそれが封じの石をご神体とした岩戸神社となります。こうして昔の人々は危険な場所を避けてきたのですが、近年になり神社の本当の意味は忘れ去られてしまいます。そして、神社のある辺りの土地に病院を建てる事になった際、神社は別の場所に移されてしまいました。  これをきっかけに一度は封じられていた黄泉の国へとつながる場が開き、黄泉津醜女が活動を再開します。黄泉津醜女は病院の入院患者や看護士といった人間を次々とその手にかけ、ある者は黄泉の国へと連れ去り、またある者は殺していきます。さらには場よりふき出す障気によって自殺者や病気になる者が多発します。それでも何とか続いていた病院だったのですが、院長がさらわれてしまうと(ちょうどその頃院長は大きな負債と奈津子が失踪した事による、指定病院の取り消し騒ぎをかかえていたため、世間的には夜逃げという事にはなっていますが)経営が立ちゆかなくなり、廃業に追い込まれます。その後、残った建物は廃墟となり、再び人が近付かなくなります。  病院が廃墟となった後、黄泉津醜女は時折やってくる浮浪者や、肝試しなどのつもりで廃墟にやってきた人達を気まぐれに餌食にする以外は目だった活動をしてはいませんでした(黄泉津醜女は別に犠牲者を食料にしているわけではありませんので、ある者は黄泉の国へと連れていき、またある者は殺したり、さらにまた別の者には全く手を出さないなど、その行動は非常に気まぐれです。もしくは、犠牲者の選定には彼女なりの考えがあるのかもしれませんがそれは我々には理解できないものです)が、廃病院のすぐ側にロイヤルヒルズが出来、入居者が大挙して訪れたことで事情が変わります。それまでは廃病院から離れなかった黄泉津醜女は、このおいしそうな餌場を前にそれまでの行動パターンを変え、マンションの住人を餌食にしようと行動を始め、結果として、元々感受性の高かった美由紀が最初の犠牲者となりました。  黄泉津醜女は、我々と全く違う次元に住む住人達で(その次元のことを黄泉の国と呼んでも構わないでしょう)その存在や思考・行動パターンは我々とは全く違うものです。  黄泉津醜女達は基本的には我々と同じ次元に存在していないため、物理的な実体を持ちません。彼女たちは非常に精神的な存在であり、その存在そのものが(非常に歪んだ)精神そのものと言っても良い様な存在です。  このため、彼女たちの存在は我々の精神に非常に影響を受け、また、我々も彼女たちから非常に精神に影響を受けます。この精神的な相互作用(これをいにしえの人々は“道"と呼びました)がない限り、彼女たちが行動を起こすことは出来ません。つまり、彼女たちは廃病院の中に存在していながら、近くに精神を持った人間が居なければ何の行動を起こすことも出来ず、存在していないも同然の状態になってしまうのです。  しかし一度“道"が付けば、彼女たちにとって物理的な距離や障害は何の意味もなさなくなります。彼女たちはいつでも好きな時に、犠牲者の元を訪れることが出来る様になるのです。この“道"は、犠牲者がどれだけ黄泉津醜女の存在を近くに感じているか、と言う事によってよりしっかりしたものへとなっていきます。最終的に彼女たちが犠牲者を手に掛ける(殺すにしろ、黄泉の国へ生きたまま連れて行くにしろ)様になるためには、もはや犠牲者がハッキリとその存在を知覚する必要があるため、最初の犠牲者として選ばれるのは、美由紀の様に感受性の強い人間と言うことになるのです。  黄泉津醜女達は、ロイヤルヒルズの建設当初から、建築業者や内装業者など、“扉"の近くを訪れる者達の精神に様々な働きかけをしていますが、感受性の強い人間がそうたくさん居るわけでもないので、せいぜい体調不良を訴えたり、事故が多かったりという程度で片づけられてしまっていたわけです。  しかし、この精神的な働きかけは、期間が長くなればなるほど強い影響力を及ぼす様になりますから、このまま放っておけば、ロイヤルヒルズの犠牲者達はさらに増えていくでしょう。  また、同様に既に黄泉津醜女達の存在に意識を向けてしまっている探索者達にも“道"は付き始めています。事件を放置すれば次の犠牲者は、探索者達になることでしょう。  黄泉津醜女達が精神に影響を及ぼすのには、彼女たちの次元である黄泉の国の扉との距離によって与える影響力が違ってきます。このため黄泉の時間である夜間(特に新月の夜の午前2時前後)に廃病院を訪れた者には、特に強い影響力を発揮することが出来るのです。この時間帯の廃病院は、黄泉の国から吹き出す障気と黄泉津醜女達の“力"によって、黄泉の国へと取り込まれている状態です。この時間帯の廃病院には、存在しない地下2階への階段が現れ、黄泉津醜女達が病院内を徘徊し、生きながら黄泉の国へと連れて行かれた犠牲者達が幽鬼となってさまよい歩いており、大変危険な状態です。しかしながら、探索者達が事件を解決することが出来る唯一の手段は、この地下2階へと下りて行き黄泉の国の扉に、岩戸神社のご神体である道返の石(チガエシノイシ)を投げつけることだけなのです。  北村病院の廃屋は、新月の日の夜中と探索者達が既に黄泉の国の存在を知っていて、黄泉津醜女達の存在を感じているのならば(事件の真相をほぼつかんだ状態なら)黄泉の国に取り込まれた状態になります(“道"の存在のためです)。 !!!北村病院(黄泉の国)  黄泉の国と繋がってしまった状態の北村病院の廃墟は、原則的には繋がっていない状態の廃墟と同じものです。  違う点としては、生きながら黄泉の国へと連れて行かれてしまった人々が、病院内を幽鬼の様な有様でさまよい歩いていることと、無いはずの地下2階へと続く階段が現れている事、一部に正気度喪失のイベントが発生することです。 幽鬼となった犠牲者達には以下のような人達がいます。なお、遭遇すると1/1D4ポイントの正気度を失いますが、「恐怖に慣れる」ルールを適用します。 !!院長 北村純一  白衣姿で黒縁の眼鏡を掛けた太り気味の初老の男。院長室のデスクに座っています。もし探索者が引き出しからモンブランを見つけて持って行っていれば返すようにと迫ってきます。大人しく返せばそのままデスクに戻りますが、返さない場合はPOWの対抗ロール(院長のPOWは13)を行い、失敗するとCONを1D3ポイント失います。これは1D6日間の療養で回復します。対抗ロールに成功した場合、院長はその場にいる別の探索者に対抗ロールを仕掛けてきます。全ての探索者に対抗ロールを仕掛け、失敗した場合は部屋から逃げ出してしまいます。成功した場合、探索者達が部屋から出るまで対抗ロールを仕掛けてきます。 !!浮浪者風の男  ひどく汚れた身なりのやせ細った50代ぐらいのヒゲもじゃの男。応接室でタバコ(シケモク)を吸ってます。話しかけたり近くを通ったりすれば「たばこをくれよう」と言って襲いかかってきます(院長同様、POWの対抗ロール。POW9)。 !!廃墟オタク  ジャングルブーツにL字型ライト、ヘルメット姿の小柄な男。年の頃は30代ぐらい。ニコンD70所持。2Fを徘徊(遠くの廊下にゆらゆらと動く明かりが見え、その明かりの場所に行くか、そのまま明かりを付けたまま立ち止まっていればやがてやってきます)。  TakaというHNで廃墟関係のブログを書いていて、ここの病院に潜入。しかし結果は異世界に連れ去られたという悲劇の男。  探索者達が安全靴や軍手、ヘルメットなどを着用していない場合、説教してきます(うざいだけで無害です)。 !!バカップル  3F倉庫で古いナース服を手に、じゃれ合っているバカップル。無害です。 !!入院患者  松 健(まつ たけし)と言う名前の入院患者。3階、グリーンエリアにいます。何やらぶつぶつと呟いています。近寄って聞いてみると、「ふんぐるいぐるむなふぅ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」と言っています(クトゥルフ神話+1)。無害です。 !!看護婦  B1F、女子ロッカーにいます。ロッカー室の外を通ると何やらぶつぶつと喋る女性の声が聞こえてきます。探索者達が入っていくと、「なんであんな女なんかに!!」といって一番近くにいた探索者(女)に襲いかかってきます(男性しかいなかった場合にはランダムな男性に)。POW対抗ロール、POW9 探索者が失敗すると成功するまで対抗ロールを続け、一回ごとにCONを1D3ずつ奪っていきます。これは1D6日間の療養で回復します。 !!中西美由紀  B2Fの廊下にいます。詳細は「廃病院」を参照してください。 !!ちょっとした仕掛け  おまけイベントです。時間に余裕のあるときに挟むと面白いかも知れません。全て0/1D2ポイントの正気度を失います。  ・手術室のマネキンがこちらを向いてにやりと笑う  ・霊安室の祭壇が音を立ててバラバラと崩れる  ・2F男子浴室、シャワーから突然真っ赤な水が  ・1Fエレベーター がたんごとんという重たい音と共にチーンと鳴り、ドアが開く(もちろんエレベーターはありません)  ・202号室 入ると折り鶴がまるで竜巻の中にいるかのような勢いで舞い始める。POW9の対抗ロール。探索者が失敗すると成功するまで対抗ロールが続き、一回ごとにCONを1ずつ奪っていきます。 !!!忍び寄る気配  探索者たちが事件について調べ始めると黄泉津醜女との"道"がつきはじめ、探索者たちの周囲で黄泉津醜女の気配がするようになります。具体的には、キーパーは任意のタイミング(夜、一人の時が良いでしょう)で任意の探索者にPOWロールをさせて下さい。成功すれば誰かが後ろにいたような気がします(振り返っても誰もいません)。  第二段階では、任意のタイミングでPOWの2倍ロールをさせて下さい。成功すれば誰かが後ろにいたような気がします(振り返っても誰もいません)。  以降、POWロールの倍数を上げていきます。POWの3倍ロールを超えると、成功すると一瞬視界の端に髪の長い白い着物姿の女がいたような気がします(正気度1/1D3)。この辺りから常に誰かに見張られているような気がしてきて、また夜寝ると1/2の確率で髪の長い女の出てくる夢を見ます(夢の内容は美由紀が話したものと同じで、真っ暗な中、どこか遠くで錆び付いた鉄の扉が開く時のような軋んだ音が響いて、それから髪の長い白い着物姿の女がロイヤルヒルズの前の道を下ってくるというものです(正気度1/1D3))。  POWの5倍ロール辺りからははっきりと髪の長い女―黄泉津醜女―の気配が常に感じられるようになり、鏡を見ると必ず黄泉津醜女が鏡の中に現れます(正気度2/1D6)。  大体ゲーム内時間で3日で1段階上がります。  そして、POWの10倍ロールまで達すると、鏡の中から黄泉津醜女が現れ、その探索者の首を絞めます(黄泉津醜女の能力については『廃病院』参照)。※こうなるともう助からず、バッドエンドです。 !!!対決  さて、探索者たちが黄泉津醜女を撃退し、事件を解決するためには岩戸神社のご神体である塞ぎの石を持ちだし、地下二階の大扉の向こう側に投げてヨモツヒラサカを閉じなければなりません。さらにその際に障害となる黄泉津醜女には神社になっている山桃の実が必要になるでしょう。探索者たちがこのことに気づくためには郷土資料館(もしくは、八王子市中央図書館)で『八王子の民話』を調べるなどする必要があります。キーパーは探索者たちがこのことに気づかないようならそれとなくヒントを出すとか、あるいはアイディアロールをさせるなどする必要があるかも知れません。  また、塞ぎの石は地下二階の大扉の内側から外側へ(図のA地点からB地点に向けて)呪文を唱えながら投げる必要があります。間違えてB地点からA地点へ、もしくはB地点からC地点方向へ投げた場合、轟音と共に扉が閉じられ、探索者たちは黄泉の世界に取り残されてしまい、バッドエンドとなります。  黄泉津醜女については扉を開ける→すぐに石を投げ入れる等すれば動き出す前に扉を閉じられるかも知れません。動き出した場合には桃を投げつけるか、実体化している間に攻撃するかしかありません(詳しくは「廃病院」を参照下さい)。 !!!悪夢の終わり 無事に塞ぎの石でヨモツヒラサカを閉じることの出来た探索者は1D10ポイントの正気度を得ます。 !!!エピローグ 上手く塞ぎの石を使って扉を閉じられれば轟音と共に扉が閉まり、辺りが地響きと共に崩れ始めます。 脱出するためにはDEXの5倍ロールを3回成功させる必要があります。失敗するとがれきが当たり、1回毎に1D6ダメージ(幸運ロールに成功すれば1D3)です。 ※ここまで来てそんな運試しなど必要ないと思う場合にはロールせずに脱出させても構いません。 以下の文章を読み上げて下さい。 ----------------------------------------------  君達が石を投げつけると、辺りには耳を聾さんばかりの轟音が轟き、閃光と突風が君達を襲う。思わず目を閉じた君たちが次に目を開けた時には、扉は何事もなかったかの様に閉まっていた。  シン、とした静寂が辺りを包んでいる。  暫くの間、誰もがお互いを見つめたまま一言も発せずにいた。 「おわ…った?」  ○○が(キャラクターの名)ポツリと呟く。  お互いに顔を見つめたまま、それに答えようと口を開き掛けた時だった。  ゴゴゴ…  低い、地の底から響いてくる様な地響きを伴って、建物が微かに振動を始める。そしてその振動は瞬く間に立っていられない程の大揺れとなり、天井から砂埃や、岩の(コンクリ?)固まりがポロポロと落ち始める。 「崩れるぞ!!」  ○○(キャラクターの名)がそう叫んだすぐ上の天井が大きく崩れ、○○はすんでの所で身をかわす。 「出口へ!!」  ○○の声に弾かれる様にして、皆は一斉に出口を目指した。  皆必死に出口を目指すが、大きく揺れる足下と、落ちてくる天井のせいで思う様に進めない。わずか数十メートルがまるで数百メートルの様にさえ感じる。それでも、どうにか階段室まで辿り着いた君たちをひときわ大きな揺れが襲う。それと共に、もうもうとした砂埃を巻き上げ、天井が一気に崩れ落ちてきた。 「早く階段を…」  そんな言葉をも飲み込み、辺りが暗闇に包まれる。そして、君たちは意識を失った。  ピピ…チチチ…  どこかで、鳥が鳴いていた。 (珍しいな…鳥なんて…)  ぼんやりとした意識の中で、君たちはそう思っていた。君たちの住んでいる辺りでは、鳥と言えばせいぜい烏で、それも姿を見かけるのは生ゴミの袋をあさっている姿だけだったのだ。  まどろみの中で、もう少し寝ていようと寝返りを打つ。と、いつもの布団の柔らかな感触でない、冷たく、埃っぽい床の感触がした。 (…えーと…ここは…?)  うっすらと目を開けると、そこが見慣れた自分の部屋のベットではないことに気付く。それと共に、ぼんやりと霞が掛かった様になっていた頭が急速に覚めていき、途切れていた記憶が甦った。 「!!」  君は、ガバッと起きあがり、慌てて辺りの様子をうかがう。心臓がドクドクと鼓動し、全身にアドレナリンを送っていた。  微かに上から漏れてくる薄明かりの中、見えたものは同じように倒れている友人達の姿と、階段だ。  どうやら、自分たちは階段の踊り場にいるらしい―。  そう理解した君は、恐る恐る友人の身体に手をかける。  もし―。  だが、微かに伝わってくる温もりが、不吉な予想を否定する。君は、そっと胸をなで下ろす。思わず、頬が揺るんでいた。 「おい、起きろよ。どうやら俺たちは、黄泉の国へは招待されなかったらしいぜ」  君は、そう言って友人の肩を乱暴に叩いた。  それから、数ヶ月が経とうとしていた。  結局、ロイヤルヒルズで発生した溺死事件並びに失踪事件は、未解決のまま世間から忘れ去られようとしている。今、誰かにあの事件のことを尋ねてみても、せいぜい、『ああそんな事件もあったな』程度の関心しかないだろう。普通の人達にとって、ドラマの中でのフィクションと大差ないこうした『どこか遠くでの事件』は、毎日の様に起こる様々な事件、そして身の回りの雑事に埋没していくのだ。  だが、君たちの心には、あの日、青白い顔をして君たちに助けを求めてきた美由紀の姿が、その声が、今もこびりついて離れないでいた。 「お願い、助けて…私も連れて行って…」  あの、幽鬼となった美由紀は今はどうなってしまったのだろう。君は、美由紀の感触の残る自分の手をじっと見つめる。  いつの日にか、自分たち自身が最期の日を迎え、あの扉の向こう側の世界に赴いた時、再び彼女にまみえることになるのだろうか…。  その時、彼女は一体どのように、迎えてくれるのだろうか…。 ---------------------------------------------------------------- !!!バッドエンド(髪の長い女)  ※うまくヨモツヒラサカを閉じられなかった場合、このエンディングになります。  闇の中、目の前に扉があった。  そして、何処からともなく髪の長い女が現れ、扉の前に立つ。女はゆっくりと、固く閉ざされていた扉に手をかけると、君の方を見てニヤリと笑った。いや、実際には顔は長い髪の毛に隠され、その表情をうかがうことは出来ないはずだ。だが、君は確かにそう感じたのだ。 「よせ! 止めろ!!」  君は必死にそう叫ぶが、女はそんな君の反応を楽しむ様に扉をゆっくりと開いていく。  キィ〜  軋む様な音を立て、扉がゆっくりと開いていく…。 「!!」  声にならない叫び声を上げ、君は飛び起きていた。  心臓が早鐘の様に打っている。髪をかき上げようと額に触れると、寝汗がべっとりと手に付いた。見ると、全身寝汗でぐっしょりだ。  君は溜め息をつくと、服を着替えようと洗面所へと向かった。  既にあの事件から数ヶ月が経とうとしている。結局、ロイヤルヒルズで発生した溺死事件並びに失踪事件は、未解決のまま世間から忘れ去られようとしていた。今、誰かにあの事件のことを尋ねてみても、せいぜい、『ああそんな事件もあったな』程度の関心しかないだろう。普通の人達にとって、ドラマの中でのフィクションと大差ないこうした『どこか遠くでの事件』は、毎日の様に起こる様々な事件、そして身の回りの雑事に埋没していくのだ。  しかし。あの女は確実に近づいてきている。  姿が見えるとか、何か確証があるわけではない。しかし、君の中の何かが、あの女の存在を感じているのだ。それも、すぐ近くに。このままでは…。  そんな考えを振り払おうと、君は乱暴に蛇口をひねると、その水で何度も何度も顔を洗う。まるで、そうすれば嫌な記憶まで洗い流されるとでもいう様に。  指がふやけてしまうまでそうした後、君は水を止め、溜め息と共にタオルで顔をぬぐった。 (もう、終わったんだ…)  心の中でそう呟き、ふと顔を上げた君の視界に、それが映っていた。  髪の長い女が。  鏡に映って。  君の、後ろに。  君は、恐る恐る後ろを振り返ろうと…。 !!!バッドエンド(扉の向こう側)  君達が石を投げつけると、辺りには耳を聾さんばかりの轟音が轟き、閃光と突風が君達を襲う。思わず目を閉じた君たちが次に目を開けた時には、扉は何事もなかったかの様に閉まっていた。  そう。君たちを扉の向こう側に残したまま、扉は固く閉ざされていた…。 !!!map等 !!周辺図 GM用 {{ref_image map_GM.jpg}} プレイヤー用 {{ref_image map_pl.jpg}} !!中西邸 {{ref_image nakanishi.jpg}} !!北村病院 {{ref_image 3f.jpg}} {{ref_image 2f.jpg}} {{ref_image 1f.jpg}} {{ref_image b1f.jpg}} {{ref_image b2f.jpg}} !!!参考文献 古事記物語 鈴木三重吉 角川文庫 1980 ※上記書籍の青空文庫版データを引用しています(この場合ページ表記はどうすりゃ良いの…)。 http://www.aozora.gr.jp/cards/000107/card1530.html ※古事記 稗田阿礼・太安万侶 校注 武田祐吉 角川書店 1956 ※上記書籍の青空文庫版データを引用しています。 http://www.aozora.gr.jp/cards/001518/card51731.html !!!プレイヤー資料(コピペしてプレイヤーに渡して下さい) 古事記物語 すると、その坂の下には、ももの木が一本ありました。  神はそのももの実を三つ取って、鬼どもが近づいて来るのを待ち受けていらしって、その三つのももを力いっぱいお投げつけになりました。そうすると、雷神たちはびっくりして、みんなちりぢりばらばらに遁(に)げてしまいました。  神はそのももに向かって、 「おまえは、これから先も、日本じゅうの者がだれでも苦しい目に会っているときには、今わしを助けてくれたとおりに、みんな助けてやってくれ」とおっしゃって、わざわざ大神実命(おおかんつみのみこと)というお名まえをおやりになりました。  そこへ、女神は、とうとうじれったくおぼしめして、こんどはご自分で追っかけていらっしゃいました。神はそれをご覧になると、急いでそこにあった大きな大岩をひっかかえていらしって、それを押(お)しつけて、坂の口をふさいでおしまいになりました。  女神は、その岩にさえぎられて、それより先へは一足も踏(ふ)み出すことができないものですから、恨(うら)めしそうに岩をにらみつけながら、 「わが夫の神よ、それではこのしかえしに、日本じゅうの人を一日に千人ずつ絞(し)め殺してゆきますから、そう思っていらっしゃいまし」とおっしゃいました。神は、 「わが妻の神よ、おまえがそんなひどいことをするなら、わしは日本じゅうに一日に千五百人の子供を生ませるから、いっこうかまわない」とおっしゃって、そのまま、どんどんこちらへお帰りになりました。 表紙の黄ばんだノート(奈津子の日記) 「病院の地下2階の大きな扉」から「あの女」が現れていつか自分を連れていく気だ 「あの女」とは、長い髪を垂らした女で、鏡から鏡へ移動する「力」を持っている、「別の次元からやってきた女」 最後の記述 「昭和49年8月18日 暗黒の月、扉の向こう側から今夜やってくる 私には石を見つけられなかった 助け」 8号室の壁の落書き 愛しき我が汝兄の命、かくしたまはば、汝の國の人草、一日に千頭絞り殺さむ 八王子の民話  昔々、桃園の辺りには人をさらう鬼女がいて、村人達は大変おそれていた。  ある時、日本武尊命<ヤマトタケルノミコト>の東征の折り、命はこの地にやってきて宿を求めた。  命は村人から人をさらう鬼女の話を聞くと、鬼女を退治しに出かける。その日の晩、命が山で野宿していると、夢に一羽のキジが現れ、「これをお持ちなさい」と命に石を渡した。驚いた命が目を覚ますと、確かに命の手に石が握られている。その石を持っていく事にした命は鬼女の出てくるという穴へ行き、鬼女と対決する。命は草薙の剣で鬼の首をはねるが、鬼女は地中から次々に現れ命に襲いかかる。さすがの命も疲れ切り、弱り切ったところで、鬼女どもは一斉に襲いかかろうと身構える。  その時、命は夢を思い出し、持っていた石を掲げると、「道返大神(チガエシノオオガミ)、塞(さや)り給え防ぎ給え」と祈念して石を穴めがけて投げ込んだ。  石が穴の中へ吸い込まれていくと、突然、穴の中に雷鳴がとどろき、穴はしっかりと閉じてしまった。  以来、桃園の鬼は現れなくなり、村人達は命に感謝したという。 岩戸神社の看板 時知らずの山桃 昔からこの辺りには山桃の木が生えていたが、必ず一株は一年中瑞々しい実のついたままの株があり、「時知らずの山桃」と呼ばれている。(八王子市郷土資料館発行、八王子の民話より) 岩戸神社 ご祭神:道返大神(チガエシノオオカミ) 由緒:昔、この辺りには鬼女が出て村人を苦しめていたが、東征の折に立ち寄った日本武尊命によって鬼女は退治されたという。この神社はその際に使われたという塞ぎの石をご神体にしたものと伝えられている。