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静寂(しじま)降る街

[クトゥルフの呼び声]

はじめに

 このシナリオはBRP版クトゥルフの呼び声向けに作られた、現代の(と言いつつも既に10年以上昔ですが…)アメリカを舞台にしたシナリオです。
 探索者の人数は2〜4人までが適当でしょう。ただし、以下の「ちょっとした仕掛け」を使用する場合には3人ぐらいまでの方が時間が短縮できます。
 探索者達は全員初対面が基本設定ですが、プレイヤー達の性格などによっては知り合いでも構いません。その場合は以下の「ちょっとした仕掛け」は使用しないことになります。

 公開に当たっての追記:このシナリオは大分古い物なので今見直してみるといくつかの欠点があります。たとえば、ダヴナントがどうしてダイナマイト持ってるのか、とか、どうして鍵があんな所にあるのに中に人がいるんだよ、とか。その辺は各キーパーが修正するか、「細けぇこたぁ良いんだよ」と開き直るかしてください。
 ただ、かなり致命的な欠点として、「ラスボス強すぎ」というのがあります。キーパーはデータを修正するか、多少手加減する方がよいかも知れません。

ちょっとした仕掛け

 キーパーはあらかじめ以下の文章を人数分印刷しておきましょう。
 そして、それを封筒に入れ、一人一人のプレイヤーに渡し、一人一人が中身を他人に知られないように確認する様にしてください。

 おめでとう! あなたは外れました。

 ※この結果は他人に知られてはいけません。

 我れ、地に平和を与えん為に来たと思うなかれ。今から後、一家に5人あらば、3人に2人に、2人は3人に分かれて争わん。父は息子に、息子は父に、母は娘に、娘は母に…


 これはプレイヤー同士がお互いに疑惑を抱くようにするためのフェイクです。この際、一体それが何のことなのかと聞かれても意味深な笑顔を浮かべるだけで答えてはいけません。

 もちろん、そんな手間が面倒な場合には他のプレイヤーから見えないところで一人一人にカードでも引かせて、「おめでとう、外れです」と耳打ちしても良いです。

 さらに、キーパーはゲーム中、探索者達をなるべく別行動させましょう。また、その際には他の探索者達に分からないよう、別室や離れたところに一人一人を呼び出して行動を尋ねてください。

※この仕掛けは探索者同士を疑心暗鬼に陥らせるのが目的ですが、面倒だ、もしくはプレイヤー達の性格などからふさわしくないと判断した場合には使用しなくて構いません。

シナリオ本編

プロローグ

 アメリカ合衆国メーン州にある寂れたリゾート街アンバートンに、今一人の若い女性が辿り着いていた。抜けるような白い肌と、儚げな口元。着ている独特の服は、彼女がシスターである事を示していた。彼女は今にも雪が舞い降りてきそうな鉛色の空を見上げつつ一つ溜息をついた。クリスマスも間近だと言うのに、何と寒々し景色なのだろう。しんと静まりかえった街並みは、この街が人々の記憶から追い出されて久しいことを示している。かつては、ここも沢山の観光客や街の人々でにぎわっていただろうに。
 彼女は荷物の入ったスーツケースを重そうに両手で持ちながら、中央通りを、建物を一つ一つ確認していくかのようにゆっくりとした足取りで歩いていく。寂れた酒場の看板、閉鎖されて久しい商店街のウインドウ。 …だが、何処にも懐かしさや郷愁は感じられなかった。それらは全く見知らぬ世界であった。
 彼女は古い街の地図を見ながら通りを進んで行く。やがて少し高くなった丘のような所が見えてくると、彼女は立ち止まって地図と見比べる。そのてっぺんの辺りには古い木が何本も生えているらしく、ここからでも茂った枝の様子がぼんやりと分かった。
「あそこだわ…」
 何度も地図と見比べていた彼女は、そう呟くと再び歩き始める。
 知らず知らずのうちに、足取りが軽くなっていることに彼女は気付いていなかった…

導入

 1999年12月下旬。ノストラダムスの予言では世界が滅亡するはずの年もあと2週間足らずとなっていた。探索者達はそれぞれ、アメリカ合衆国メーン州(アメリカ北東部 カナダとの国境がある州)にある静かなリゾート街アンバートンに、クリスマス休暇を過ごそうとやって来る。
 アンバートンは、かつては炭鉱や鉄鉱などで栄えた街だったらしいが南北戦争を境に衰退し、主な化石燃料が石炭から石油に移ると、人々の記憶から完全に忘れ去られていったようだ。今では、リゾート街として観光に力を入れているらしいが、他に産業を持たない街の苦し紛れの策で、交通網も整備されていないこの街に、わざわざやって来ようとする観光客など、たかが知れており、街には小さな(自称)リゾートホテルが一軒あるだけだった。
 探索者達がアンバートンへ入るには、車を使用するしかない(アンバートンには鉄道が通っておらず、最寄り駅から半日かけてやって来るオンボロバスも冬期は運休してしまう)。
 まず、探索者達はそれぞれDEX順に街へ向かっている(予兆の後)。先頭の探索者から順に<幸運>ロールを行い、失敗した探索者は、途中で車がスリップし、雪だまりに車が突っ込んでしまう。後続の探索者は、その探索者と遭遇し、二人一緒に街へ向かう事となる。この場合、自動的にその探索者達は最後に街へ到着する事になる。
 次に、先頭(最も早く街に到着した探索者)の者は、ホテルに到着し、支配人室で死体を発見したところを、次順の探索者に発見される事となる。その次からは順次、街に入る事となる。

アンバートンについて

 アンバートンは人口数百人程度の小さな街で、雪の多い丘陵地帯にあり、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツが楽しめるが、反面、交通の便が悪く、あまり観光客の多くないうらぶれたリゾート街と言った感じで、もっぱら、静かに休暇を過ごそうと考える者か、誰にも邪魔されずに研究論文の作成か創作活動を行おうと考える大学教授や作家などに利用されている。


予兆

 君は、降りしきる雪の中をひっきりなしに動いているワイパー越しに前方を見つめながら、インターステート65号線をアンバートンに向かって車を走らせていた。車道は今や山道となっており、対向車線の車とすれ違ったのは、もう30分以上も前の事だった。昨夜から降り始めた雪は今や大雪となっており、君は道路が封鎖されはしないかと、先ほどから交通情報局のラジオにチャンネルを合わせっぱなしにしていた。 …もっとも、だからと言って道路封鎖を回避できるわけでもないのだが。 …ラジオのスピーカーからは交通情報局のアナウンサーのバカに陽気な声が流れいる。
…インターステート65号線は大雪の為、先程、午前9時22分よりサウスウェストから通行止めとなりました。…現在、復旧の見通しはたっていません…
 君は思わずうめき声をもらした。
サウスウェストから通行止めだって!? 引き返せなくなったじゃないか!! クソ!!
 君は陽気な声でしゃべり続けるアナウンサーの声にハラを立て、ラジオのチャンネルを乱暴にひねった。
なにが楽しいんだ!! このクソッたれめ!! 人が大雪にあって引き返せなくなったのがそんなに楽しいか。そもそも、道路管理局の奴らがイイカゲンだからこんな事になるんだ。クリントンなんぞに票を入れなきゃよかった。
と、君が訳のワケのワカラない事をつぶやきながら、ラジオのチャンネルをひねっていると、ようやく何かの番組にチューニングが合った。どうやら宗教番組のようで、雑音にまじって牧師の説教がとぎれとぎれに流れてくる。君はうんざりして、音楽番組にチャンネルを合わせようとした。しかし、なぜか、その手がとまった。スピーカーから牧師の声が静かに流れる。
「我れ、地に平和を与えん為に来たと思うなかれ。今から後、一家に5人あらば、3人に2人に、2人は3人に分かれて争わん。父は息子に、息子は父に、母は娘に、娘は母に…」
窓の外では、雪が静かに降りしきっていた。

ホテルの惨劇

 探索者達がアンバートンの街に到着したのは、昼を少しまわった時刻だった。街は大雪の為かあたりに人影も無く、不気味な位、静まり返っている。
 探索者達がとりあえず、予約していたホテル"ヒルトン・イン"へ向かうと、ホテルも街中と同じように静まりかえっていた。探索者がドアを開けてロビーに入ると、ロビーにもフロントにも人がおらず、不気味に静まり返っている。そして、ホテル全体に何かイヤな雰囲気がたちこめている。
 とりあえず、支配人室(フロントのすぐ脇にある)へ行ってみると、ドアが半開きになっており、部屋の中から、どこかで嗅いだ事のあるような匂いが漂ってくる。部屋の中へ入ってみると、ソファの陰にタキシードを着た男が倒れている。男の首から上は、散弾銃でメチャメチャに引き裂かれており、白いワイシャツは血でどす黒く変色している(SANチェック、0/1D4)。男の手には、火かき棒が握られている。
 ショックを受けた探索者が、911へ電話しようと、デスクの上の電話の受話器を取り上げても、ウンともスンとも言わない。どうやら雪で、電話線が切断してしまったようだ(ちなみに、携帯電話も圏外でかからない)。
 しかたなしに部屋を出て大声を出しても、相変わらずホテルの中はしんと静まりかえっている。探索者がホテルの中を歩き回るのならば、ホテルのあちこちで人が殺されているのを発見することになる(その度ごとにSANチェック)。死体は食堂、キッチン、客室などに全部で10体ほどあり、それぞれ銃で撃たれたり、刃物で刺されたりなどして殺されている。中には、明らかに殺しあった形跡のものもあり、一体、このホテルで何があったのかまるで見当もつかない。探索者達がもし欲しければ、マグ・ライト、マッチ、ローソク、12ゲージ・ショットガン、ショットガンの玉(10発)、肉切りナイフ、火かき棒などを入手することが出来る。
 探索者達がホテルで呆然としていると、突然、静寂を切り裂いて、街中に教会の鐘の音が響き渡った…

静寂の街

 探索者達がホテルを出て教会に向かって街を歩いてみても街の中は相変わらず、街は雪と静寂に包まれている。試しに、民家などのチャイムを押しても家の中からは何の反応もない。もし、誰かが家の中に入ると言うのなら(ほとんどの家は鍵がかかっているが、窓を破るなどして、家の中に入った場合)、その家は、50%の確立で誰もいないか、死体が転がっている。誰もいない家は食器なども出しっぱなしで、慌ててどこかへ出て行ったような形跡がある。死体は、ほとんどのものが銃で撃たれているか、刃物で刺されているか、鈍器で殴れて殺されたもので、まだ腐敗は始まっていない。

探索者達が教会へ行く途中で、保安官事務所などを訪れる事にした場合

◎保安官事務所

 保安官事務所には人気がなく、誰もいない。部屋の中はちらかっていて、デスクの上などには書きかけの書類などが散らばっている。<目星>ロールに成功すると、書きかけの事件報告書を発見することができる。

 報告書は10数ページあり、ざっと読むだけでも30分位かかる。報告書は、一作日からアンバートンに起こった連続殺人事件についてのもで、街の人間が次々と殺されて行ったらしい。折からの大雪で、外界との接触を断たれた街の人々は、姿の見えない殺人者にパニックを起こし、怪しいと見た人間を殺すという、まるで魔女狩りさながらの最悪の状況になったようである。保安官は当初、必死になって犯人を捜索したが、街の人間が街の人間を殺すようになってからは、明らかに精神に異常をきたしたようで、積極的に"犯人狩り"を行っていたようである。報告書の最後のページは狂ったような殴り書きで以下のように書かれている。

…本日21:00時までに、既に24人の"犯人"を射殺した。しかし、これまでの犠牲者に比べれば、ささやかな犠牲である。一体この世で自分の命より大切なモノなどあるだろうか? 否、これは正当な正当防衛である。通りでは、また、銃声と悲鳴が響いている。私は自己の正当な権利を守るため、また、保安官としての義務から、さらに犯人を射殺するつもりである。

しかしながら…

 また保安官事務所では、武器用のロッカーから、9mmパラ弾30発と、12ゲージ・ショットガン(グラス弾8発)、シグ・ザウエルP228 1丁を入手する事ができる。

■それ以外の場所からは特にめぼしいものはない。

教会の鐘

 探索者達が街中に響き渡る教会の鐘の音に導かれるように教会に辿り着き、教会の重厚な扉を開くと、突然、銃声が聞こえ、扉に穴が開く。教会の中にいる赤ら顔の中年の男が、銃身から煙の出ているリヴォルバーを構えている。探索者達が応戦しようとすると、教会の中から「止めなさい!!」と鋭い声が聞こえる。中年男はしぶしぶといった感じで銃を下ろすが、目は油断なく探索者達を見張っている。
 探索者達が教会の中に入ると、教会の礼拝堂の中には、全部で13人の憔悴しきった生存者と思しき人々が集っている。最初に「止めなさい!!」と叫んだ司祭服に身を包んだ男が探索者達を招き入れる。
「大変失礼した。ここは神に守られし聖なる教会。迷える子羊、神の子を守護する場所。主はあなた方を拒みません。で、生存者の方ですな。もう大丈夫です。ここは、神に守られし教会。悪魔の力は、ここには及びません。 …見たところ、この街の人ではなさそうだが …旅行者の方かな。」
探索者達が自分達の素性を説明すると、神父はうなずいて
「…そうですか。それは、災難でしたな。だが、もう安心です。私は、このアンバートンで教区牧師をしております、ピート・ヴァーノンです。例え、この教会の中へ殺人者が入ってきても、皆で力を合わせれば捕まえるなり、倒すなりできるでしょう。」
と言う。教会の礼拝堂の中には、その他に12人の人間がおり、明らかに家族と思しき人達以外は、皆、はなれた所に座っている。12人の内訳は、恋人と思しき若い男女、最初に銃をブッ放した明らかに酔っている赤ら顔の中年男、身なりの小ざっぱりとした30位の男と、その娘らしき10歳位の少女、スーツを着て神経質そうな感じの痩せた男、トレンチコートを着て鋭い目つきをした屈強そうな40代の男、怯えきっているような感じの気の小さそうな男と、その妻らしき女、そして、その夫婦の子供らしき7〜8歳の男の子、髭をたくわえ頑固そうな50代後半の老人、三つ揃いのスーツを着て眼鏡をかけた知的な印象を受ける初老の男である。
 <心理学>ロールに成功すると、ほとんどの人間が、ひどい不安感と恐怖感に怯えているのが判るが、神父、スーツを着て痩せた男、トレンチコート、眼鏡の初老の男の4人は比較的落ちついているように見える。また、<心理学>ロールに成功し、さらに<精神分析>ロールに成功すると、恋人同士の男と女、酔っ払いの男は精神的にかなり追い詰められており、パニック寸前というのが判る。

生存者達

 探索者達が教会に入り神父(モンセニョル)と話していると、3人の家族の妻(わりと美人)が不安そうに
「モンセニョル、私達これからどうなるんでしょうか?」
とポツリと言う。すると酔っ払いが鼻を鳴らして
「フン! これからどうなるかだって!! みんな死ぬんだ。頭のイカレた殺人鬼にぶっ殺されるんだ!!」とわめくように言って、気味悪い声で笑い出す。すると、恋人同士の若い女の方(キツめの美人)が、
「イヤよ!! そんなのイヤ!!」
とヒステリックにわめきたてて、そもそもこんな所に連れてきたあなたが悪いのよ!!と、男の方をなじる。男の方は男の方で、「君が来たいと言ったんじゃないか!!」と応酬し、口汚い罵り合いが相方の間で展開される。これを見ていた10歳位の女の子は怯えたようにすすり泣きを始める。娘の父親は2人の仲裁に入り、「やめてくれ!! 娘が怯えているじゃないか!!」と言う。すると、女の方が泣きながら、
「なんで、私ばっかり責めるのよ!!」
とヒステリックに泣き叫ぶ。そして、7歳位の男の子も怯えて泣き出し、神経質そうな男がイライラしたように「うるさい!!」と怒鳴り付ける。酔っ払いはウィスキーをラッパ飲みしながら狂ったようにゲラゲラ笑い出す。
 そして、ついにモンセニョルが威圧的な声で、「落ち着きなさい!! 悪魔の声に耳を傾けるのは止めなさい!!」と一喝する。
「ミセス・ホプキンズ、当面はここでじっとしているしかないでしょう。吹雪がおさまるまで、外には出られないし、殺人鬼が外を歩いている可能性も高い。今、必要なのは、互いに信じ合い、この地獄のような状況の中で助け合う事なのです。」
 すると、神経質そうな痩せた男が、クックックッと含み笑いを漏らす。
「その通り。外は危険だ。だが、ここも安全とは言えないね。殺人鬼だって人間のハズだ。だったら、こんな吹雪の中、肉切りナイフをぶら下げていつまでも通りをウロウロしているはずがない。ヤツはここに入ってきたかも知れない。 …そうさ、ついさっき」
そう言って、探索者達の方を見る。すると、礼拝堂の中にいる全員が青ざめた顔で探索者達の方を見やり、中には後ずさる者もいる。
 探索者達が<説得>と<信用>ロールの両方に成功すれば、その探索者は、一応、信用されるが、失敗した場合には、明らかに不審がられているのがわかる。そして、3人家族の父親の方が、
「出てってくれ!! 今すぐに!!」
と言ってくる。しかし、奥さんの方が夫に向かって、
「あなた止めて。私はこの人達を信じるわ。だって悪い人には見えないもの。それにモンセニョルもおっしゃていたように、今は助け合う事が必要なのよ。 …ごめんなさい、うちの人を許してあげてください。みんな気が変になっているの、ムリもないけど…」
と言ってくる。そして、手を差し出し。
「私、ローザ。ローザ・ホプキンズです。主人のコリン、息子のティモシーです。」
と自己紹介する。そして、次々と礼拝堂に居る人を紹介してくれる。
酔っ払いの中年…ジェフ・ブレマー、身なりのこざっぱりした30代の男…フレッド・モートン、その娘…カレン、髭の老人…アルフレッド・マーカス退役大佐。
それ以外の人間は、街の人間ではないらしい。探索者達が名前を聞くと、恋人同士のキザったらしい若い男は、アースキン・ブラウンと名乗り、ニューヨークで俳優をしていると言ってくる。キツそうな女の方は、エリザ・ウッドハウスだそうだ。神経質そうな男は、ローマン・ルイーズと名乗る。<オカルト>ロールに成功すると、あまり売れていないオカルト作家と言う事がわかる。仕事の事など尋ねても、
「あんたには関係ない」としか答えない。
トレンチコートの男は、「ダヴナント・アントン・ダヴナント。アーカムで私立探偵をやっている。」と言う。
最後の3揃いのスーツを着て眼鏡をかけた老人は、ドクター・シュタウフェンベルグと名乗り、アーカムのミスカトニック大学で歴史と宗教学を教えていると言う。ミスカトニック大学出身の探索者は<知識>ロールに成功すれば、教授の言っている事が嘘ではないとわかる。
フレッド・モートンも探索者達を信用したのか、握手を求めてきて、自ら自己紹介をしてくる。
「フレッド・モートンです。アンバートンで開業医をやっています。こっちは、娘のカレン。」
カレンは、礼拝堂の隅の方で彫像のように身をこわばらせて立っている。<心理学>ロールに成功すると、何か(誰か)に対し、非常に怯えていることがわかる。と、突然、身を二つに折って、苦しそうに咳き込み始める。<医学>ロールに成功すれば、すぐに喘息の発作だとわかる。フレッドは、すぐに娘に駆け寄って薬を与えている。探索者達が喘息の発作について質問すると、
「この子は、喘息の発作を持っていましてね。 …7年前、この子が3歳の時までは、私達はワシントンで暮らしていたんですが、ある事件をきっかけに、この子は心を閉ざしてしまい、以来、喘息の発作も…それで、環境治療も兼ねて、このアンバートンに移ってきたんです。もともと、私はここの出身だったらしいですから…」
と答える。探索者達がさらに、「ある事件」について尋ねると、ホプキンズ夫人が探索者達をたしなめる。しかし、フレッドは片手を上げてそれを制止すると、
「いや…いいんだ、ローザ。ある事件とは、この子の母親、つまり私の妻が何者かに殺された事件です。私はその時、家を留守にしていて…この子は。 …この子は、実の母親が殺されるところを見ていたんです…」
と、辛そうに答える。ちなみに、まだ犯人は捕まっておらず、事件は迷宮入りしたとの事である。もし、探索者達がこの事件に興味を持ち、あれこれ聞き出そうとしても、フレッドは、もうそれ以上、何も喋ってはくれない。思い出すのも辛いのだろう。窓の外は、既に日が沈みはじめ、相変わらず静かに雪が降っていた…。

忍び寄る恐怖

 カレンは、相変わらず苦しそうにしており、フレッドは心配そうに娘を抱いてやっている。見かねたモンセニョルが、
「ミスター・モートン、2階に部屋が空いている。古いものだがベッドもある。娘さんをそこで休ませてあげなさい。」
と言い、フレッドに鍵を渡す。フレッドは少しためらったて娘の方を見た後、鍵を受け取り、
「すいません、感謝します、モンセニョル。」
と言うと、娘を抱き上げて2階へと向かう。探索者達は?

* 一緒に2階へ行く。⇒#1へ。
* このまま礼拝堂に残る。⇒#2へ。

#1

 フレッドと共に2階へ行く探索者達。その中で最後尾の探索者は人の気配を感じて立ち止まり、周囲を見渡すと、2階の廊下の曲がり角で、15〜16歳の古めかしい服を着た少女が、こちらをじっと見ているのを、一瞬だけ目にする。しかし、次の瞬間には、もう消えている。あれは、目の錯覚だったのだろうか? それとも…。君は、慌ててフレッド達の後を追った。フレッド達は個室に着くと、2人だけで中に入り、中から鍵をかけてしまう。一緒に中に入ろうとすると、「すいません。信用しない訳ではないのですが、状況が状況ですから…」と断られる。やむなく、2階に立っていると、どこからか、断末魔の絶叫が響き渡った…。<SANチェック>(0/1D2)⇒#9へ。


#2

 みんなと礼拝堂に残る事にした探索者達。礼拝堂には重苦しい沈黙が垂れ込めていた。と、突然、ホプキンズ家のティモシーが、「ママ、おしっこ。」と言い出す。両親はうろたえて、モンセニョルの方を見やる。すると、モンセニョルは黙ってうなずき、「他に、トイレに行く人は?」と聞く。この質問に、教授、アースキン、エリザ、マーカス大佐、ダヴナントが同行を申しでる。ジェフは、ムッツリと黙り込んで相変わらず、ワイルド・ターキーをガブ飲みしている。ローマンは、皮肉っぽく笑っているだけだ。探索者達は?


* 行く。⇒#3へ。
* 礼拝堂にとどまる。⇒#4へ。 

#3

 探索者達はみんなと一緒にトイレに行くことにする。トイレで用を足し廊下へ出ると…⇒#5


#4

 礼拝堂に残っているのは、探索者達とローマン、そしてジェフだけである。ジェフは酔っているのか何かブツブツと独り言を言って、装填したマグナム・リヴォルバーをもてあそんでいる。その光景にゾっとしたのか、ローマンが慌てたように立ちあがり、「や、やっぱり、私もトイレに行ってこよう。」と言って礼拝堂を出て行く。探索者達は?


* ローマンと共にトイレに行く⇒#5へ
* それでも礼拝堂にとどまる⇒#6へ 

#5

 用を足し終わって薄暗い廊下に出ると、礼拝堂の方からローマン(探索者達)がやって来る。ローマンは、「あのジェフって男、狂っている。殺されるかと思った。」と言っている。全員が用を足し終わって廊下に出て点呼してみると、いるハズのアースキンがいない。慌ててトイレの中を探してみても見当たらない。しかも、何時からいなかったのかもよくわからない。礼拝堂を出る時は、確かにいたハズだが…全員の胸の中に言いようのない不安感が広がって行く。<SANチェック>(0/1)。一行は、とにかく、礼拝堂に戻ることにした… #7へ


#6

 結局、礼拝堂に残ったのは、ジェフと探索者達だけである。急にガランとして薄暗い礼拝堂が恐ろしくなってくる。と、突然、ジェフが、「クソッたれ!!」と大声で叫ぶと、ワイルド・ターキーのビンを床に叩きつけてコナゴナにする。そして、ガバっと立ちあがると、フラフラと礼拝堂を出て行こうとする。探索者達が何処へ行くのか質問すると、「酒が空だ。酒を探してくる。」と言って出て行く。探索者達がついて行こうとすると、銃を突きつけて、「うるせぇ! ついてくんじゃねェ!! ぶっ殺すぞ!!」と怒鳴る。仕方なく探索者達は礼拝堂に残る事になった…⇒#8へ


#7

 礼拝堂に戻ってみると、いるはずのジェフがおらず、床に割れたワイルド・ターキーのビンが散乱している。ここにもアースキンはいない。一体どこへ…?と、その時、静寂を切り裂いて教会中にどこかから断末魔の絶叫が響き渡った。<SANチェック>(0/1D2)⇒闇の教会へ


#8

 結局、礼拝堂に残ったのは探索者達だけだった…(もし、この中の誰かが気の狂った殺人鬼だったら…)君は湧きあがる不安感を必死に押さえつけ、じっと座っていた。と、トイレに行っていた面々が戻ってくる。君はようやく安堵した。と、それもつかの間、エリザが半狂乱になって、「アースキン! アースキンは? ヒドイ、私を見捨ててどこかへ逃げたのね!!」と言っている。そして、それ以外の面々も、皆一様に不安そうな表情を顔に浮かべている。モンセニョルが、「ミスター・ブラウンの姿が見えないんだ。君達は知らないかね?」と聞いてくる。探索者達が知らないと答えると、突然、ローザが、「ジェフ?! ジェフもいないわ!!」と言う。探索者達がジェフは酒を探しに行ったと答えると、ローマンは、「フン!! 怪しいもんだな。」と疑わしげに探索者達の方を見る。しかし、アースキンがいなくなった? 君の心に再び押さえようもない不安感が湧きあがる… と、その時、静寂を切り裂いて教会中にどこかから断末魔の絶叫が響き渡った… <SANチェック>(0/1D2)⇒闇の教会へ


闇の教会

 教会中に絶叫が響き渡るとともに、突然、教会中の明かりが消え、周囲は闇に包まれる。人々は恐怖心からパニックを起こし、あちこちで悲鳴とどたばたと走りまわる足音、泣き声などが聞こえ、急速に遠ざかっていく。探索者がようやく一時のパニックから脱し(持っていれば)懐中電灯やローソクの明かりを点けた時には、君は暗闇の中に一人とり残されていた。そして、その状況に気付いた時、全身を激しい恐怖感が襲う。今しも、そこの闇の中から気の狂った殺人者が襲いかかってくるのではないか、そんな、恐ろしい妄想が次々に頭に浮かんでくる。<SANチェック>(0/1D4)。

 その妄想を振り払い、取り敢えず君は、

* 誰かを探しに教会の中を歩いてみる。
* どこかに隠れてじっとしている。

#9

 (どちらを選んだとしても)君はとにかくも、この場から移動しようと歩き始めた。と、ふと廊下の隅に明かりが動いたのに気付いた。誰かが歩いている! 相手は、まだこちらに気付いていないようだ。君は…


* 明かりの相手に話しかける ⇒#aへ
* 隠れて様子を覗う ⇒#bへ

#a

 君が明かりの方へ近寄って行くと、相手もこちらに気付いたらしく驚いたように走り去ってしまう。今のは一体誰だったんだろうか…?、随分、慌てていたようだが…⇒闇の中の光へ


#b

 君は明かりを消し、闇の中に身を潜めて様子をうかがう事にした。じっと息をひそめていると、相手はこちらに気付いた様子もなく、コソコソとした足取りで廊下の曲がり角に消えていった。今のは確か…


(教授)

 そう! 確かミスカトニック大のシュタウフェンベルグ教授だ。手になに紙片のような物を持って、何かを探っているような様子だったが、一体なぜ…もしかして奴が…⇒闇の中の光へ 

(ダヴナント)

 そう! 確かアーカムの探偵と言っていた、ダヴナントという男だ! 確かに右手に黒光りする拳銃を握り締めていた。探偵なら持っていてもおかしくはないが、探偵とは思えないような所もある。もしかして奴が…⇒闇の中の光へ 

(探索者の誰か)

 そう! 確か(探索者の職業)と言っていた(探索者の名前)という男(女)だ! 確かに右手に、(拳銃、肉切りナイフ、ショットガン、火かき棒、斧etc…)を持っていた。そう言えば、奴は何かを隠しているような素振りを見せていたが…もしかして奴が…⇒ 闇の中の光へ

(マーカス大佐)

 そう! 確か元陸軍大佐と言っていたマーカスという男だ! 確かに右手に黒光りする拳銃を握り締めていた。いつも黙って全員を観察するような目付きをしていたが、もしかしてあの男が…⇒闇の中の光へ

闇の中の光

 と、その時、突然どこかから銃声と悲鳴が聞こえ、君の物思いを破った。 …2発…3発…立て続けに発砲音が響き渡る。君は恐怖にかられ、気が付くと闇雲に走り出していた…。
 何処をどうして走ったのかは分からないが、闇の中に浮かぶ光にハッとして我に返ると、いつの間にか礼拝堂に戻って来ていた。礼拝堂には燭台の置かれている説教壇の周囲に極度の緊張に引きつったような顔をしたモンセニョルとホプキンズ一家が立っていた。ローザは恐怖の為、ガタガタと震え、ティモシーは母親のスカートにしがみついて引きつったような泣き声をあげている。モンセニョルは君達に気付くと、
「あぁ、あなたも無事でしたか。他の方々がどうなったかわかりませんか?」
と言ってくる。暫くすると、マーカス大佐、ローマン、ダヴナント、その他の探索者達も次々と礼拝堂に集ってくる。皆一様に恐怖を押さえ込んでいる表情をしている。モンセニョルは、「他の人達は?」と聞くが、皆一様に首を振るばかりである。皆、あの混乱の中で他人にかまっている余裕などなかったのだろう。と、燭台を持った男が礼拝堂に入ってくる。フレッドだ。フレッドはかなり取り乱した様子で、
「カレンを、カレンを見ませんでしたか?」
と、全員に問いかける。モンセニョルは心配そうに、
「最初は…最初のうちはついていたんですが、そのうち悲鳴が聞こえて、外へ様子を見に行った途端、突然、真っ暗になってしまって… 何とか手探りで部屋に戻ったら、カレンが…必死になって探したんですが、どこにも… まさか…まさか…」
そう言うとフレッドは、ワナワナと震え出す。モンセニョルは、フレッドの肩に手を置くと、
「大丈夫だ、ミスター・モートン。きっと主がお守り下さる。父親の君がそんなに取り乱してどうする。みんなで力を合わせて探すんだ。」
と言って励ましている。そんな訳で、一応みんなでカレン(と、その他の行方不明者)を探す事になる。取り敢えず、礼拝堂の暗がりを探すことにする。中庭に面した暗がりを捜索していた探索者の一人が<目星>ロールに成功すると、窓の外に誰か倒れているのを発見する(誰も成功しなければダヴナントが発見する)。フレッドはすぐにカレン!!と叫んで中庭に出ようとするが、モンセニョルが、「一人では危険だ!!」と同行を申し出る。マーカス大佐もこれに従う。一方、ダヴナントは、「これは罠かもしれん!」と言う。ローマンも、「冗談じゃない。私には関係無い事だ。」と行く気はないらしい。フレッドはダヴナントに掴みかかりそうな勢いで、「私の娘なんだ!! あんたは自分の娘を見殺しに出来るのか!!!」と怒鳴る。ホプキンズ一家は怯え切った様子で、隅の方でお互いに抱き合って祈りの言葉を呟いている。
「天にまします我らの父よ、願わくば御名の尊まれん事を。御国の来たらん事を…」
 さて、探索者達は…

* フレッド達と共に、中庭を調べに行く⇒#10へ
* ダヴナントの警告に従い、礼拝堂でじっとしている⇒#11へ 

#10

 フレッド達と共に、雪の降りしきる中庭にでた一行。外は既に日が落ち、凍えそうな程、寒い。中庭に出てみると、確かに人が倒れている(半分位、雪に埋もれているが)。だが、大人位の体格で、カレンでない事はわかる。近寄って調べてみると、それは男の惨殺死体だった。首から上は切り落とされ、首には固まった血がこびりついている。<SANチェック>(1/1D4)。<医学>ロールに成功すれば、頭部は斧のような物で力任せに切断されているのがわかる。死体の服装は、アースキン・ブラウンのもので、恐らく、この死体はアースキンのものだろうとわかる。死体の周囲には足跡などは見当たらない。フレッドは、「カレン?! カレンは一体どこに…」と言い、モンセニョルは死体を前にして十字を切り、祈りの言葉を呟いている。と、その時、またしても教会から絶叫が響き渡った…⇒#14へ


#11

 ダヴナント達と共に礼拝堂で待つ事にした探索者達。礼拝堂の中には、ローザの呟くような祈りの言葉と、引きつったようなティモシーの泣き声が響いている。と、突然、二階の方から何かの物音が聞こえ、その場にいる全員を凍りつかせる。と、ローザが、「もしかしたら、カレンちゃんが…?!」と言って探索者達の方を見る。探索者達が動かなければ、次にダヴナントの方と見、夫のコリンに、「あなた!」と言う。コリンはためらっていたが、燭台と火かき棒を握り締めると、ローザにキスをして、「ティムとしっかり守ってくれ。」と言うと、礼拝堂を出て行こうとする。ダヴナントは舌打ちすると、「仕方ない、俺も行こう。」と同行を申し出る。ローマンも、「私はこんな所にいたくない!」と言って行くらしい。探索者達は…


* コリン達と共に様子を見に二階へ行く⇒#12へ
* ローザ達を守る為、礼拝堂に留まる⇒#13へ 

#12

 コリン達と共に二階へやって来た探索者達。物音がしたあたりの廊下へ行ってみると、懐中電灯(蝋燭)の明かりの中に、凄絶な光景が浮かび上がった。天井からロープのようなもので、エリザが逆さ吊りになって、ゆらゆらと揺れている。その頭は斧のよう物でかち割られており、無残な傷口から血と脳味噌がこぼれ出して、床の上に血溜まりを作っていた。<SANチェック>(1/1D4)。この光景を見たローマンは、血も凍るような絶叫をあげる。コリンは床の上に吐いている。一行は逃げるようにして礼拝堂まで戻るのだった…⇒#15へ


#13

 不安と緊張に押しつぶされそうになりならがも、ローザ達と礼拝堂で待っていると、突然、二階から血も凍るような絶叫が聞こえてくる。ローザは「あなた!!」と叫んで、明かりも持たずに出て行こうとする。探索者達が止めに入ると半狂乱になって、「離して!! あなた!! あなた!!」と抵抗する。と、そこへ、中庭に行っていたフレッド達が戻ってくる。今の悲鳴は?と口々に質問してくる。探索者達が事情を説明していると、そこへ二階へ行っていたダヴナント達が転がり込むようにして戻ってくる。皆、青ざめた顔をして、「に…二階で女が殺されて…吊るされている!!」と言うのだった…⇒狂気の宴へ


#14

 君達が礼拝堂に慌てて戻ってくると、礼拝堂の中にはローザとティモシーしかいない。フレッドが、「今の悲鳴は?」と聞くと、ローザがおろおろしながら、

「あ、あなた達が出て行った後、二階で物音が聞こえて…もしかしたら、カレンちゃんじゃないかって…主人とダヴナントさんとルイーズさんが二階へ様子を見に行って… そ、そしたら急に悲鳴が…まさか主人の身に何か…」

と答える。取り敢えず二階へ行ってみようなどと話していると、ダヴナントとコリンが転がり込むようにして戻ってくる。そして、恐怖におののきながら、「に…二階で女が頭を割られて…つ、吊るされている!!」と言うのだった…⇒狂気の宴へ


#15

 探索者達が転がり込むようにして礼拝堂に戻ると、フレッド達も戻って来ている。一行が二階で見た物の事を説明していると、ローマンがいないのに気付く。と、その時…⇒狂気の宴へ


狂気の宴

 と、その時、少し遅れてローマンが戻ってくる。と、彼は礼拝堂の入り口で立ち止まり、何かに目を凝らす。その彼の目がたちまち恐怖で大きく見開かれる。そして、気の狂ったような金切り声を上げながら、肉切りナイフを振り回し始める。
「フッフハハハハ…死ね! みんな死ぬんだ! だが、俺はタダでは殺されんぞ、お前らみんな道連れにしてやる! 死ね!!!」
傍に立っていたコリンは左腕をナイフで切りつけられ、悲鳴を上げる。ローマンの目は完全に正気を失っており、口の端からは泡を吹いている。ダヴナントは懐から拳銃を取り出すと、続けざまに三発、発砲する。三発ともローマンの体に命中し、ローマンは脳味噌を後ろの壁にブチまけて肉切りナイフを握り締めたまま絶命する。<SANチェック>(0/1D3)。ダヴナントはまだ銃口から煙の出ている拳銃を下ろすと、深い溜息をついてかぶりを振った。モンセニョルは、「何と言う事を…」と呟く。負傷したコリンには、フレッドとローザが駆け寄る。フレッドが応急手当をしているが、どうやら命に別状はなさそうだ。
 これで全てが終わったのだろうか? 殺人気はローマンだったのだろうか? そんな事を考えていると、突然、背後で撃鉄を起こす音が聞こえる。
「やはり貴様が犯人だったな。ワシの目は誤魔化せんぞ…とうとう、正体を現しおったか… このキツネめが!!」
驚いて振りかえるとマーカス大佐が44口径スナブ・ノーズを構えて立っている。その銃口は…ダヴナントに向けられていた。
 ダヴナントは、凍りついたように目を大きく見開いて立ちつくしている。その表情は信じられないと言った感じだ。
「ち、違う! 俺じゃない! 俺は…」
「黙れ!! 銃を捨てろ!! この余所者が!!」
ダヴナントの全身に緊張が走った。ホプキンズ一家、フレッド、モンセニョルも緊張した面持ちで、事の成り行きを見守っている。マーカス大佐は自信に満ちた様子で、
「ワシは最初から怪しいと睨んどったんだ。第一武器の扱いや、身のこなし…とてもタダの探偵とは思えん。こいつは怪しい、そう確信しとった。ローマンと貴様は共犯者だったんだろ。そして、その共犯者も殺した。 …次はワシらの番…と言いたいところだったんだろうが、そうはいかんぞ。罪の報いを受けるがいい!!」
と言い、引き金に力を込める…この状況に探索者達は…

* ダヴナントと助け、大佐を止める⇒#16へ
* 大佐を信じ、大佐のするに任せる⇒#17へ 

#16

 探索者達がダヴナントを助け、大佐を止めようとすれば、大佐は、「くっ、貴様らもこいつの仲間だったか!!」と、死に物狂いで抵抗する。ダヴナントも大佐を射殺しようとする。結果として大佐は死んでしまう。


#17

 轟音と共に44口径が火を吹き、至近距離で四発の銃弾を体に受けたダヴナントは、脳味噌や内臓をばらまいて、断末魔の絶叫を上げる暇もなく絶命する。この時点で、大佐に不信感を抱かれるような行動をとっていた探索者がいれば、次に大佐は、その探索者に銃口を向ける。「フッフッ、上手く隠し通したつもりだろうが、判っているぞ。貴様もこいつの一味だろう。」

 大佐は、ほとんど狂信的な確信を持っている為、いくら口で説得しようとしても無駄である。


父は息子に、息子は父に、母は娘に、娘は母に…

 大佐やダヴナントが死んだにせよ、生き残ったにせよ、今や事態は最悪の状況になりつつあった。窓の外では、闇の中で吹雪が猛威をふるっている。生き残った面々は説教壇のまわりに集っていた。ローザが殆ど泣きそうな声でモンセニョルに質問する。
「モンセニョル、私達は助かったんですか? もう死なずに済むんですか?」
モンセニョルは、ただ黙ってかぶりを振って、
「ローザ、それは私にもわからない。まだ、行方の知れない人達もいる。」
と答える。ローザはそれを聞くと、ヘナヘナと崩れ落ち、ポロポロと涙を流しながら、「そんな…そんな…」と呟いている。モンセニョルはローザの肩に優しく手を置くと、
「ローザ…だいぶまいっているようだね。無理もない。二階に、まだ、部屋が空いている。家族でそこに入って休みなさい。」
そう言って、部屋の鍵を渡す。そして、全員に向かって、
「皆も部屋に立てこもって、休んだ方がいいだろう。お互いが顔を合わせていると、いらぬ誤解や疑念を生み、今やそれをとどめる手段がない。これ以上の犠牲を出さぬためにも、少なくともこの地獄のような夜が明けるまでは部屋に閉じこもって、誰が来ても絶対に扉を開けぬ事だ。」
と提案する。しかし、フレッドは、
「いや、モンセニョル。私はカレンを探します。私は…私は、あの子を守ってやらなければ。それに、私が生き残っても、あの子が死んでしまったら何の意味もありません。」
と言い、この提案を決然と拒絶する。モンセニョルは、暫くじっとフレッドの顔を見ていたが、やがて力強く頷くと、
「わかった、フレッド。私も神に仕える身、一緒に探しに行こう。」
と言う。万が一、探索者達が同行を申し出ても、気持ちは有り難いが、危険が大きすぎる。自室で休んでいてくれと断わられる。
 こうして生き残ったメンバー達は、それぞれの空き部屋に閉じこもり、夜を明かす事となる。長く血で彩られた夜を…。
 取り敢えず空き部屋の一つに入り、腰を落ちつけた君は、鍵がしっかりかかっていることを確かめ、ベッドの端に腰を下ろした。目を閉じるとまぶたの裏に凄惨な光景ばかりが浮かび、耳の奥には断末魔の絶叫がこびりついている。混乱した頭を整理しようとしたが、どうしも闇の中から誰かが襲いかかってくるイメージを振り払えない。一体、誰が何の為に人を殺しているのだろうか? 一体誰が… 本当に犯人は死んだのか…? それともまだこの教会の闇の中でじっと息をひそめて新たなる犠牲者を待ち構えているのだろうか…?
 君は…

〇モンセニョル、〇コリン、〇ローザ、〇ティモシー、〇フレッド、〇カレン、〇ローマン、〇マーカス大佐、〇ダヴナント、〇アースキン、〇エリザ、〇教授、〇ジェフ、〇他の探索者、〇その他

が怪しいと考えている。何故なら…
〇その理由を聞いておく。
そんな事を考えているうちに、いつしか君は深い眠りの底に転がり落ちていった…。

悪夢

 闇の中で声が聞こえる…"魔女"、"異端者"、悲鳴、絶叫、肉の焼ける音、 "パパ…助けて"、骨の砕ける音、"次はお前だ…次はお前だ…" "助けて!!"、また、悲鳴、冷たい目で見る街の人々、燃えさかる炎、祈りの言葉、絶叫のうめき、振り下ろされる斧、飛び散る鮮血、呪いの言葉、"殺してやる…殺してやる"、哀しい目をした15〜16歳の少女… "もう、止めさせて…"、少女は教会の書庫に入っていく… そして、2階の1番奥の部屋の書斎に…カレンが叫んでいる、"パパ…助けて!!"
 ハッとして目を覚ます。どれ位寝ていたのだろうか? 耳を澄ますと相変わらず教会の中は不気味な程、静まり返っている。しっどしていると、再び恐怖が忍び寄ってきた。君は…

* いてもたってもいられなくなって、部屋の外に出ることにした⇒#18へ
* 恐怖心を押さえ込み、部屋でじっとしている事にした⇒#19へ 

#18

 部屋の外へ出て様子を覗うと、廊下の隅に夢で見た15〜16歳の少女が立っているのを目撃する。少女は逃げるように走り出す。後を追うと、書庫の前で見失ってしまう。君は、書庫に入ってみる事にした…⇒葬られた過去へ


#19

 部屋の中でじっとしていると、外の廊下で微かに人の気配を感じる。君は…


* こっそり外の様子を覗う⇒#20へ
* 布団をかぶって震えている⇒呪われた教会へ 

#20

 扉を薄く開けて外の様子を覗うと、廊下の隅に夢で見た15〜16歳の少女が立っているのを目撃する。少女は逃げるように走り出す。後を追うと、書庫の前で見失ってしまう。君は、書庫に入ってみる事にした…⇒葬られた過去へ

葬られた過去

 書庫の扉を開けて書庫の中に入ると、まず見に飛び込んでくるのは、ズタズタに切り裂かれたシュタウフェンベルグ教授の死体だった。<SANチェック>(1/1D4)。教授の死体は、あお向けに倒れており、腹の傷口から腸がこぼれ出している。教授の死体の内ポケットを調べると、古びた鍵と教会の古い地図が見つかる。地図には地下室のようなものが書かれている。教授の右手には、百科事典のナ行(ナ〜ノまで)が握られている。同じ種類の百科事典のある棚(2階1番奥)には百科事典のナ〜ノが収めてあった場所に<アーカム教会 異端審問の記録>と題された古い皮装丁の本が入れられている。手に取ってざっと読んでみると、以下のような事がわかる。
 今を去る事、1699年の末、1692年に始まったアメリカ魔女裁判の波は、片田舎のこのアンバートンにも押し寄せ、当時の教区牧師ヨハネス・ヴァーノンの指揮の下、当時、アンバートンで魔女と噂されていたジュリア・アンバー以下、50人近い女性が魔女の疑いで教会に捕らえられ、拷問の末、全員処刑されたというものであった。さらに教授の書いたとおぼしきメモ書きによると、その後、教会とアンバートンの街の住人は、この忌まわしい事実を闇に葬ったとの事である。そして、最後に震える字で、"血族"となぐり書きしてある。これは、一体どういう意味なのだろうか… と、その時、突然、教会の鐘が鳴り響き始めた…。

呪われた教会

 突然、鳴り響き始める教会の鐘…その音は、葬送の鐘の音だった。慌てて廊下に出てみると、探索者達の見ている前で、壁に血文字が浮かび上がる。 "次はお前だ"と。さらに、礼拝堂の方からは、パイプオルガンの音が響き、あちらこちらで断末魔の絶叫や、狂ったような笑い声が聞こえてくる。<アイディア>ロールに成功した探索者は、
 呪われている…この教会も、街も…魔女と断罪され、殺されて行った女達の怨念が渦巻き、復讐しようとしているのだ…。
と気が付く。探索者達が、何処かへ行こうと歩き始めると、廊下の先に、あの夢に出てきた少女が立っている。少女は哀しそうな目で探索者達の方を見つめている。
"助けて…もう、私達を解放して…この永遠の苦しみから…"
少女の悲痛な声が探索者の頭に、直接、入り込んでくる。
"君は…君は、300年前、魔女の疑いをかけられて殺されたのか…?!"
探索者がそう考えると、少女は哀しそうに頷き、静かに目を閉じた。その目から、真っ赤な血の涙がこぼれ落ちる。次の瞬間、少女の姿は、闇の中に消えた…。
 これから探索者達は、教会の中を調べて回ろうとするだろう。その際、生存者達を助けようとしたか確認しておく事。教会の各部屋の調査結果は以下の通り。

礼拝堂

 礼拝堂では狂ったように、パイプオルガンが奏でられている。パイプオルガンを弾いているのは…頭のかち割られたエリザ・ウッドハウスの死体だった!!<SANチェック>(1/1D8)。その他には何も無い。

鐘楼

 鐘楼で鐘を鳴らしているのは…ジェフ・ブレマーである。ジェフの首は180度捻られて、完全に絶命している!<SANチェック>(1/1D8)。その他には、44マグナム・リヴォルバー(3発入り)を入手できる。

キッチン

 キッチンには、ローマン・ルイーズの死体が肉切りナイフで襲いかかってくる!<SANチェック>(1/1D8)。

1階廊下

 1階廊下には、マーカス大佐の動く死体が徘徊しており、探索者達の姿を見ると、恐ろしい唸り声を上げて襲いかかってくる。<SANチェック>(1/1D8)。

司教執務室

 (もし、ダヴナントが死んでなければ)部屋の中は荒らされた形跡があり、デスクの上に古ぼけた日記が乗っている。日付は、1699年〜1701年迄のもので、J・ヴァーノンと書かれている。日記は古く、ボロボロになっている上に、古い英語で書かれているので、読むためには、<英語>ロールで半分のチェックに成功しなければならない。
 日記には、当時の教区牧師ヨハネス・ヴァーノンのもので、アンバートンで行われた魔女狩りについて書かれている。当時、ヴァーノン師は、魔女狩りに消極的だったようだが、街の人間に押しきられる形で、魔女裁判を始めたらしい。そして、魔女の頭目とみなされていたジュリア・アンバーを調べて行くうちに、ジュリアが、実際に、悪魔教を信奉している事を突き止める。そして、そのあまりの邪悪さに恐怖したらしい。その後、ヴァーノン師は、この邪悪な教えは完全に消滅させなければならないと、殆ど狂信的な熱狂を持って魔女狩りを進めたようだ。アンバー家の人間の血は呪われている、根絶やしにしなければならない、と記述されている。日記の後半部は、ジュリアが所有していた本(妖蛆の秘密とかかれている)についての記述で、恐ろしい事が色々書かれている。<SANチェック>(0/1D3)。クトゥルフ神話+5%。
 また、<目星>ロールに成功すると、本棚の中に古いラテン語で書かれた "魔女の鉄槌"という題名の本を発見することが出来る。<ラテン語>ロールか、<歴史>ロールに成功すれば、この本が、魔女狩りの為の指導書である事がわかる。

 ダヴナントが死んでいれば、部屋は荒らされておらず、<目星>ロールで机の隠し引き出しを発見しなければ、"J・ヴァーノンの日記"をみつけることが出来ない。 

2階空き部屋

 探索者達が真っ先にホプキンズ一家の部屋へ行っていれば、一家は部屋の隅で震えている。彼らを助けるためには<信用><説得><言いくるめ>ロールに成功し、<精神分析>ロールで少し落ち着かせなければならない。
 もし、遅れて行けば、一家は2階のトイレで惨殺されてしまっている。
 ダヴナント、マーカス大佐(生き残っている方)の部屋はもぬけの空である。ダヴナントが生き残っていた場合、<幸運>ロールに成功すれば、床の上にパス・ケースが落ちているのをみつけられる。パス・ケースの中には、探偵の身分証明書が入っており、名前の欄には、ロバート・バークマンと書かれている。つまり、ダヴナントは偽名を使っていたのだ。一体、何の為に…。

中庭

 中庭に出ると、雪の上に足跡が残っており、足跡の途絶えている所の雪が少なくなっている。教授の持っていた地図によると、地下室の入り口らしい。雪をどけてみると、石のはね上げ戸を発見できる。はね上げ戸を持ち上げると、地下へと続く石の階段が現れる。

地下室

 地下には、ボイラー室と、ガラクタ置き場がある。もし、この時点で充分な武器を持っていなければ、ガラクタ置き場で、古ぼけた10ゲージのショットガンと、ショットガンの玉(16発入り)を発見できる。また、<目星>ロールに成功すれば、血だらけの斧を発見できる。
 地下室の奥の壁の前で、子供用の靴を、片方、発見できる。<アイディア>ロールに成功すれば、カレンが履いていた靴だという事がわかる。
 奥の壁を調べると、壁の窪みにスイッチの様な物を発見できる(<目星>ロール)。壁のスイッチを押すと、壁の奥に仕組まれた仕掛けが作動し、隠された通路が現れる。<聞き耳>ロールに成功すると、通路の闇の奥から、微かに呪文の詠唱の様なものが耳に入ってくる。通路は石造りで、大分昔に建てられたもののようである。通路の奥には、それぞれ、地下牢、拷問室、司教私室、儀式の部屋がある。

苦悶の記憶

 秘密の通路の奥からは、吐き気がする程、強烈な邪悪な妖気が漂ってくる。どうやら、この奥に全ての事件の根源があるようだった…。

地下牢

 地下牢は、もう何百年も使用されていないようだ。探索者が地下牢に入ると、フラッシュ・バックするように、当時の凄惨な情景が網膜に写し出される。拷問にかけられる女…絶叫…生きながら焼かれる人々… <SANチェック>(0/1D2)。どうやら、ここに殺された者達の怨念が強く留まっているようだ。

拷問室

 どうやら、この部屋は拷問室のようで、焼きゴテや、拷問台、ムチ、鉄の処女、ペンチなどが置かれている。この部屋でも、フラッシュ・バックが発生する。

司教私室

 この部屋の扉は鍵がかかっており、教授が持っていた鍵で開ける事ができる。この部屋は、ごく最近まで使用されていた形跡があり、書棚には、古い本が沢山並んでいる。<オカルト>ロールに成功すれば、それらが全て、魔術関連の書籍だとわかる。また、壁には大きな美しい婦人の肖像画が掛けてあり、隅の方に、"ジュリア・アンバー"と書かれている。婦人は美しいが、冷酷そうな印象を受ける。
 デスクの上には、乱雑に色々な物が乗せてあり、その中に比較的新しい日記帳がある。日記帳には、ピート・ヴァーノンと書かれている事から、モンセニョルのものだとわかる。日記をざっと読んでみると、以下のような事がわかる。
 モンセニョルが、この教会に住むようになってから(モンセニョルは、アンバートンに教区牧師として5年前にやって来るまで、プロヴィデンスに住んでいたらしい)、度々、奇妙な夢を見るようになった。冷酷そうな邪悪な目をした美しい女が、呼びかけてくる。そんなような夢で、そのような夢を見るようになってから、度々、自分の体を誰かに乗っ取られるような奇妙な感触に襲われるようになった。そんなある日、たまたま、書庫の整理をしていた時に、J・ヴァーノンの日記を発見し、読み進むうちに、この隠された通路と、アンバートンの忌まわしい過去を知る事になる。そして、発見したこの部屋でみつけた、ジュリア・アンバーの持っていた書物<妖蛆の秘密>を読み進むごとに、徐々に正気を失っていったらしい。だが、まだ正気が残っていたのか、後半の方に次のような記述がある。
私が、私でないような感じが、最近、益々強くなってきている。思えば、私がJ・ヴァーノンの日記をみつけたのも、何者か(ヨハネスかジュリア・アンバーなのか、私にはわからない)の邪悪な意思によるものなのかも知れない。私は恐ろしい…私が私で無くなるのが…
 そして、日記の最後には、震える字で、こう書かれている。
最近は、もう、私の心が表に出ている時の方が短くなってしまった… 今も私の頭の中では、私の破滅を望む呪いの声が聞こえる。今や私には、ヤツの望んでいる事がはっきりとわかる。ヤツの呪われた血統がそれを助けるのだ…しかし、もう私には、成す術が無い。 …私の魂は破滅の淵に立たされている…主よ、私をお救い下さい…
 デスクの引き出しには、複雑な模様の彫り込まれた古ぼけた鍵が入っている。

魔道師の帰還

 探索者達が最後の儀式の部屋の扉を開けると(司教私室で手に入れた鍵で開く)、部屋には3人の人間がいる。フレッド、カレン、モンセニョルの3人である。モンセニョルは片手に古ぼけたラテン語の本を持ち、何か呪文のようなものを唱えている。部屋の奥には祭壇のようなものがあり、炎があかあかと部屋の中を照らしている。床には一面に魔方陣のようなものが描かれている。モンセニョルの顔は、狂気に歪んでいるように見える。
 (この時点で、ダヴナントが生き残っていれば)と、その時、ダヴナントが部屋に入ってくる。そして、「カレン!!、カレンは?!」と叫び、無事だとわかるとほっとしたようだ。しかし、フレッドがカレンを抱いているのを見ると、「カレンを放せ!! この人殺し野郎!」と言って、銃を突きつける。フレッドは呆然とした様子で、「何を言ってる?! カレンは私の娘だぞ!! 貴様、一体、何者なんだ!!」と言う。ダヴナントは銃を突きつけたまま、
「いいか、よく聞け、この人殺し野郎。俺の本名は、ロバート・バークマン。貴様が殺した妻、ローラ・バークマンの実の弟だ!!」
フレッドは呆然としたまま、
「何、何だって…私が妻を、…ローラを殺しただって!! 気でも狂ったのか?!」
と答える。
「お前、と言うより、もう一人のお前だよ。今日、はっきりとわかったよ。お前はな、頭のイカれた魔女ジュリア・アンバーの血を引いてるんだ! その血が、お前を気の狂った殺人鬼に変えちまうんだよ! 悪いけどあんたの過去を調べさせてもらったよ。あんた、ニューヨークに住んでいた子供時代、精神科に通院していただろう? 病名は、解離性同一性傷害、つまり、多重人格傷害だ。その後、回復したとなっていたが、実は違った。潜伏していただけだったんだ。あんたと姉が結婚した後、姉から何度か手紙が来たよ。時々、あんたは人が違ったみたいに残忍になる、恐ろしいってね。あんた、時々、記憶を失う事があったんだろう。」
フレッドは思い当たるフシがあるらしく、驚愕した表情で後ずさる。
「そ…そんな…そんな馬鹿な!…ローラを殺したのは私だったなんて…」

 ダヴナントが現れたにせよ、現れないにせよ、探索者達が何かアクションを起こす前に突然、フレッドが頭を抱えて苦しみだす。探索者達が見守る中、フレッドの体が光に包まれ、メリメリ、バリバリと内側から引き裂かれていく。そして、中から現れたのは、美しい全裸の女だった。見開いたその目は血のように赤く燃えている。その女こそ、300年前のウィザード ジュリア・アンバーだった。女の背中には巨大な毒蛾のような羽が生えている正に悪夢の生物だった… <SANチェック>(1/1D10)。

 女は地獄の底から響いてくるような声で、
「時は来た…私は帰って来た。この地上を…バビロンを滅ぼす為に… 罪に穢れた地上を、火によって浄化する為に… 災いなるかな大いなる都バビロン、かつ、悪魔の棲家、もろもろの穢れたる霊の檻、もろもろの穢れたる憎むべき鳥の檻となれり… 災いなるかな大いなる都バビロンよ、汝の審判(さばき)は時の間に来れり」
そう言って、モンセニョルの方をジロリと見やると、
「貴様にもう用は無い…死ね!」
と言う。次の瞬間、女の体から生えた触手のようなものが、モンセニョルの体を刺し貫く。そして、探索者達の方を冷たい目で見やると、
「祈るがいい、バビロンの住人よ…自らの魂の安らぎの為に」
と言う。探索者達が銃を発砲すると、それらは全て見えない障壁のようなものに阻まれてしまう。女は薄く笑うと、いきなり歌を歌い始める。その歌は、オペラのような旋律で、女はソプラノで歌う。この歌を聞いた探索者は、<ハスターの歌>と同じ効果があり、犠牲者の皮膚と肉が泡立ち、膿を持った火脹れができて、1D6ポイントのダメージを受ける。女は勝ち誇ったように歌を歌い続ける。と、突然、女が絶叫を上げる。見ると床の血溜まりに倒れているモンセニョルが、何かの液体を女に振りかけたのだ。モンセニョルは苦しげな息の下で、
「悪魔め…地獄へ帰るがいい…さァ、今のうちなら…ヤツのバリヤーは消えている!! …この…悪魔を…倒すんだ…」
と言う。探索者達が頷くと、モンセニョルも頷き、
「主よ…我らをお守り下さい…」
と呟く。女は怒りに燃えた目でモンセニョルを睨むと、
「おのれ! お前達の家系は、どこまで私の邪魔をするのか!! 300年前、私を生きながら焼いたように、お前も焼けただれるがいい!!」
と言うと、突然、モンセニョルの体が炎に包まれる。女は怒りに燃えた目をゆっくりとこちらに向けた。今、最後の戦いが始まろうとしていた…

ジュリア・アンバー

STR:25、CON:120、SIZ:12、INT:30、POW:30、DEX:18、耐久力:50、マジック・ポイント:80

武器:触手 60% ダメージ 1D6+1D6

装甲:5ポイントのバリヤー

呪文:(使用するもの)悪夢 8MP/恐怖の移植 12MP<SAN>(0/1D6)/クトゥルフのわしづかみ(1分毎に2D6MD)/コルーブラの手 12MP/死の呪文 24MP/支配 1MP/シュド・メルの赤い印 1R毎に3MP/精神力吸引 (負けたら)6MP/精神的従属 8MP 3R後/手足の萎縮 8MP/肉体の保護 様々/ニョグタのわしづかみ S1ダメージの2倍のMP/破壊 3MP/ハスターの歌 1Rに1D4MP/被害をそらす 1MP/魅惑 0MP 30R



 もし、ダヴナントが生きていれば、戦闘中にダヴナントが女に突っ込んで行く。女は、意表をつかれるが、触手でダヴナントを刺し貫く。しかし、血を吐きながらもダヴナントは女にしがみつく。そして、探索者の方を見ると、
「カ…カレンを、カレンを頼む。カレンは…姉の…ただ一人の…忘れ形見なんだ…頼む!」
と言う。探索者がわかったと答えると、ダヴナントは安心したように、フッと笑って「さがってろ!!」と言う。そして、懐からダイナマイトを取り出すと、火を付けた…。

呪いの終焉

 絶叫と共に、女の体は地上から消え去った。探索者達がカレンを抱き起こすと同時に部屋全体が振動に包まれる。そして、みるみる石壁にヒビが入りはじめる。ジュリア・アンバーの思念によって支えられていたこの教会(つまり、教会そのものにジュリア・アンバーは巣くっていたのだ)は、ジュリア・アンバーが地上から消え去った事により、崩壊を始めたのだ。PC達が教会に駈け戻ると、教会も炎に包まれはじめている。急いで廊下を駈け抜けると、礼拝堂の中に、あの少女が立っていた。少女の目は、もう哀しげではなかった。少女の姿は次の瞬間には消えてしまったが、君には少女がこう言ったのを耳にしたような気がした。 "有難う…"と…。

静寂降る街

 君達がカレンを抱きかかえ、礼拝堂から外に出て振り返ると、ちょうど礼拝堂の屋根に火が回り始めたところだった。火は風に煽られ、やがては屋根全体に燃え広がり、屋根が崩れ落ちる事だろう。そして、その火は、この教会の中で非業の死をとげた哀れな人達の火葬の火となるのだ。
(あの火が、全てを焼き尽くしてしまうように、この目に焼き付いた恐ろしい光景も焼き尽くすことが出来たらなら…)
 ふと、そんなことさえも思う。
 気が付くと東の空が明るくなり始めていた。悪夢のような一夜が去り、朝がやって来ようとしているのだ。本当にこれが一夜の悪夢であるなら、と誰もが思っていた。だが、これは紛れも無い現実だった。次第に東の空が明るくなり、やがて、雲の切れ間から眩しい朝の光が射してきている。だが、いつもは清々しいはずの朝の光も、今は暗く沈んだ心を照らすことは出来ないようだった。
 遠くから教会の鐘の鳴る重く、もの悲しい音が微かに聞こえたが、それもすぐに止んでしまった。
 死せる街、アンバートンに雪が静かに、まるで静寂(しじま)のように降りしきっていった。

後に残されしもの

 その後、なんとか街を脱出した一行は、果たしてあの一夜の出来事が本当に起こった出来事なのだろうか、と何度も思い返す事になる。アンバートンの住人の殆どが犠牲になったあの事件は、FBIの指揮の下、徹底した捜査が行われ、暫くは新聞やテレビを賑わせた。3ヶ月以上の捜査の結果、犯人は狂信的カルト教団による住人の無差別大量殺戮事件とされ、カルト教団員達も教会に火を放って自殺したと報じられると、人々は次第に事件を忘れて行った…。
 しかし、真相を知る君達、そして、あの惨劇を目の当たりにした君達は、決して忘れる事など出来なかった。そして、ふとした時に夢に見るのだった。あの赤い目を…ジュリア・アンバーは本当にあの教会と共に滅んだのだろうか? …いや、奴は、まだ、待っている。あの焼け落ちた教会の瓦礫の下で… 君には、そう思えてしかたがなかった…。
 助け出されたカレン・モートンは、その後、引き取り手も無く、最後にミッション系の修道院に引き取られて行ったと風の噂で耳にした。カレンは、あの時のショックからか10歳以前の記憶を全て無くしてしまったらしい。救いと言えば、それが唯一の救いだった…。

エピローグ

 彼女が目指した丘の古い巨木の側には、崩れ落ちた瓦礫の山があった。と言うより、それ以外は何も無かったと言う方が正確かも知れない。
 僅かに残っている土台部分の広さから見ると、それなりに大きな建物だったのだろう。火事か何かで焼け落ちたのか、あちこちが黒く焦げ、熱で溶けた硝子や、炭化した家具の欠片などが辺りに散乱していた。彼女は暫くそこにあったはずの建物を思い描こうとしているかのように、じっと目を凝らして佇んでいたが、やがて悲しげに目を伏せて首を振った。ここにも彼女の失われた記憶を取り戻す手がかりになりそうなものは何一つ無かった。彼女はかつて、このあたりで暮らしていた事があったらしい。だが、幼い頃の記憶は失われてしまっており、シスターとして配属先を決める際に、彼女が何者であったのかを取り戻す手がかりを得るために、わざわざ、このうち捨てられた街を選んだのだったが、それもどうやら無駄足のようだった。
 彼女は何とはなしに、瓦礫の中に足を踏み入れる。かつて、ここには教会があったのだという。一歩踏み出す度に、まるで彼女の侵入を拒んでいるかのように足元の瓦礫がシャリシャリと耳障りな音を立て、あちこちに転がった梁の燃え残りや崩れた石壁の残骸などが彼女の進路に立ちふさがった。
 暫く瓦礫の中をさまよい歩いていた彼女は、ふと足元に何かを見つけ立ち止まった。拾い上げ、その上に被っていた泥や、細かい瓦礫を取り除くと、中から出てきたのは古びた一冊の本だった。
「…妖…蛆…の…秘密…」
 古ぼけた焦げ茶色の表紙には、金でタイトルが箔押しされている。どうやらタイトルはラテン語で書かれているらしいのだが、彼女はラテン語など知らないにも関わらず、不思議とそこに書いてある文字は読めるような気がした。
(…カレン…)
「…?」
 ふと、誰かに呼ばれたような気がして、彼女は顔を上げる。だが、見回してみても辺りには誰も居なかった。もしかすると、心の奥の方で聞こえたのかもしれない。
 不意に刺すように冷たい風が吹き、彼女は思わず身震いをして悴んだ手に息を吹きかける、と、彼女の鼻先をはらはらと舞い降りてくるものがあった。
 雪だ。
 見上げると、鉛色の空から大粒の雪が舞い降り始めている。彼女は本を小脇に抱えると、瓦礫の山を後にした。
「私は帰って来た」
 彼女はそっと呟く。その口元には禍々しい微笑がちらりと浮かんだが、すぐに元の儚げな表情の下に隠れてしまった。
 雪は次第に激しさを増している。この分だと、夜半にはすっかり辺りを白く覆ってしまうだろう。そして、辺りを静寂が支配することになるのだ…。

モンスターデータ


ジュリア・アンバー

STR:25、CON:120、SIZ:12、INT:30、POW:30、DEX:18、耐久力:50、マジック・ポイント:80 ダメージ・ボーナス:1D6

武器:触手 60% ダメージ 1D6+1D6

装甲:5ポイントのバリヤー

呪文:(使用するもの)悪夢 8MP/恐怖の移植 12MP<SAN>(0/1D6)/クトゥルフのわしづかみ(1分毎に2D6MD)/コルーブラの手 12MP/死の呪文 24MP/支配 1MP/シュド・メルの赤い印 1R毎に3MP/精神力吸引 (負けたら)6MP/精神的従属 8MP 3R後/手足の萎縮 8MP/肉体の保護 様々/ニョグタのわしづかみ S1ダメージの2倍のMP/破壊 3MP/ハスターの歌 1Rに1D4MP/被害をそらす 1MP/魅惑 0MP 30R


動く死体

STR:15、CON:15、SIZ:12、POW:1、DEX:7

耐久力:13(男)、9(女)、4(子供)

ダメージ・ボーナス:1D4/なし/-1D4

武器:噛みつき 30% 1D3、肉切りナイフ 25% 1D6、火かき棒 25% 1D8、斧 20% 1D8+2

装甲:なし。但し、貫通する武器は1ポイントのダメージ。その他の全ての武器はロールで出たダメージの半分(切り上げ)。


キーバー用資料

アンバートンの生存者達

1. モンセニョル(ピート)・ヴァーノン・・・神父

2. アースキン・ブラウン・・・・・・・・・・ニューヨークの俳優

3. エリザ・ウッドハウス・・・・・・・・・・アースキンの恋人

4. コリン・ホプキンズ・・・・・・・・・・・コンピュータ・プログラマー

5. ローザ・ホプキンズ・・・・・・・・・・・コリンの妻

6. ティモシー(ティミー)・ホプキンズ・・・コリンの息子

7. フレッド・モートン・・・・・・・・・・・医師

8. カレン・モートン・・・・・・・・・・・・フレッドの娘

9. アントン・ダヴナント・・・・・・・・・・私立探偵

10. ローマン・ルイーズ・・・・・・・・・・・オカルト作家

11. ジェフ・ブレマー・・・・・・・・・・・・トラック運転手

12. クラウツ・シュタウフェンベルグ・・・・・ミスカトニック大学教授

13. アルフレッド・マーカス・・・・・・・・・退役陸軍大佐


アンバートン教会

1F

2F

地下室